2012年5月25日金曜日

放射線影響研究所「原爆被爆者の死亡率に関する研究:1950-2003」日本語版

厚生労働省と米国エネルギー省共同管轄の公益財団法人「放射線影響研究所」は、その前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)の時代の1950年から原爆被爆者の死亡率に関する寿命調査を続けてきました。

このほどアメリカの専門誌 Radiation Research オンライン版で公表された「原爆被爆者の死亡率に関する研究 第14 19502003年:がんおよびがん以外の疾患の概要」において、放影研は放射線の健康リスクに閾値がないことをようやく認めました。それだけではなく、この報告は――
  • 被爆時年齢が若いほど、健康リスクは増大する
  • 健康リスクはがんだけでなく、がん以外の循環系、呼吸器系、消化器系の疾患にもおよぶ
――といった事実をも明かしています。
もとより大量の内部被曝者が次々と亡くなった1950年以前のデータは失われているなど、この報告に対して、いくつかの重大な欠陥を指摘することができるでしょう。それでもなお、山下俊一ら科学の良心どころか、人間の誠実さをどこかに置き忘れた自称専門家らの妄言を葬り去るにはじゅうぶんであるはず。
ところが日本語で読もうにも、放影研サイトでは簡単な概要が配布されているだけです。しかも、ブログ「ざまあみやがれい!」によれば、厚生労働省は日本語全文を公表するつもりはないようです。広島・長崎の被爆者を対象とし、日本政府が資金を出した研究の報告が英語でしか読めない…「英語帝国主義」そのものですね。被爆・被曝者をモルモット扱いしたABCCの体質がまだ受け継がれているのでしょう。
この研究報告を日本全国民の共有知的資産とみなし、正義と良心の名により、ここに日本語訳全文を公開します。放影研および米専門誌から著作権を振りかざした攻撃があるやもしれません。この日本語版があちこち無数のサイトに転載され、拡散されることを希望します。
報告書は統計学を駆使したものであり、難解な箇所で挫折するのもつまらないので、飛ばし読みでじゅうぶんです。重要な事実は読みやすい箇所にあるはずです。

【追伸】528日記
当稿掲載後、「市民と科学者の内部被曝問題研究会」理事長の沢田昭二氏から次のようなコメントをいただきました――
放影研の報告は疫学研究の基本である非被曝対照群Control)に、放射性降下物による被曝は無視できるとして遠距離被爆者を用いているので被曝によるリスクに大幅な過小評価をしています。発表されたデータを元に日本人平均や、広島県などの近県と比較しなおせば色々の情報を引き出すことはできますが、論文結果をそのまま受け入れるには問題がある――ということを皆さんに知っていただくことが重要です。
なお、放影研を批判する立場の沢田氏には、次のような最近の論文がありますので、あわせてお読みになるようにおすすめします。
【参照文献】
市民と科学者の内部被曝研究会第1回総会記念シンポジウムの報告
「残留放射線による被曝を無視するABCC-放影研」
米軍かまぼこ兵舎を受け継いだ放影研の光景
放射線影響研究所
1975年昭和50年)4月1日、原爆傷害調査委員会 (ABCC) と厚生省国立予防衛生研究所(予研)を再編し、日米共同出資運営方式の財団法人放射線影響研究所として発足した。
以前は厚生労働省外務省所管の財団法人であったが、公益法人制度改革に伴い公益財団法人へ移行した。






RADIATION RESEARCH 177, 229–243 (2012)
0033-7587/12 $15.00
© 2012 by Radiation Research Society.
All rights of reproduction in any form 


reserved.
DOI: 10.1667/RR2629.1

原爆被爆者の死亡率に関する研究
14 19502003 年:がんおよびがん以外の疾患の概要
小笹晃太郎 清水由紀子 陶山昭彦 笠置文善 早田みどり Eric J Grant 
坂田 律 杉山裕美 児玉和紀
Ozasa, K., Shimizu, Y., Suyama, A., Kasagi, F., Soda, M., Grant, E. J., Sakata, R., Sugiyama, H. and Kodama, K. Studies of the Mortality of Atomic Bomb Survivors, Report 14, 1950–2003: An Overview of Cancer and Noncancer Diseases. Radiat. Res. 177, 229–243 (2012).
本報は、放射線影響研究所が原爆放射線の健康後影響を明らかにするために行ってきた、原爆被爆者の集団である寿命調査集団(LSSコホート)での死亡状況に関して定期的に行ってきた総合的報告の第14 報である。LSSコホート構成者でDS02 での線量推定が行われている86,611人のうち58%が、19502003 年の期間に死亡した。追跡期間を前報から年間延長したことにより、放射線被曝後の長期間の死亡状況に関する実質的に多くの情報が得られ(がん死亡の17%増加)、特に被爆時年齢10 歳未満の群で増加した(58%増加)。放射線関連リスク、線量反応関係の形、および性、被爆時年齢、到達年齢による効果修飾作用の大きさを明らかにするために、ポアソン回帰を用いた。全死亡のリスクは、放射線量と関連して有意に増加した。重要な点は、固形がんに関する付加的な放射線リスク(すなわち、104人年/Gy 当たりの過剰がん症例数)は、線形の線量反応関係を示し、生涯を通して増加を続けていることである。全固形がんについて、線形モデルに基づく男女平均の1 Gy 当たりの過剰相対危険度は、30 歳で被爆した人が70 歳になった時点で0.4295%信頼区間[CI]:0.32, 0.53)であった。そのリスクは、被爆時年齢が10 歳若くなると約29%増加した(95 CI17, 41%)。全固形がんについて過剰相対危険度が有意となる最小推定線量範囲は00.2 Gy であり、定型的な線量閾値解析では閾値は認められなかった。すなわち、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。主要部位のがん死亡リスクは、胃、肺、肝臓、結腸、乳房、胆嚢、食道、膀胱、および卵巣で有意に増加した一方、直腸、膵臓、子宮、前立腺、および腎実質では有意な増加は認められなかった。非腫瘍性疾患では、循環器、呼吸器、および消化器系疾患でリスクの増加が示されたが、因果関係については今後の研究が必要である。感染症および外因死には放射線の影響を示す根拠は見られなかった。
1 Address for correspondence: Department of Epidemiology, Radiation Effects Research Foundation, 5-2 Hijiyama-park, Minami-ku, Hiroshima, 732-0815, Japan; e-mail: ozasa@rerf.or.jp
no evidence of a radiation effect for infectious or external causes of death. © 2012 by Radiation Research Society
序論
放射線影響研究所(RERF)、およびその前身である原爆傷害調査委員会(ABCC)は1950年以来、原爆から生成した電離放射線の健康に対する晩発性影響を判定するために、被爆者および広島・長崎の居住者でありながら爆撃のときに両市のどちらにも不在だった人たちを含む約12万人の固定人口(寿命調査[LSS]集団)を対象とする研究を続けてきた。寿命調査死亡率データを定期的に分析することによって、LSS報告シリーズ1,2がまとめられた。前回の包括的な報告(2)以降の6年間を加えた1950年から2003年までの期間を対象とする本論文は、同シリーズの一環である。以前のDS86システム1986年線量推定システム〕3からDS022002年〕線量推定システムへの転換が放射線リスク推定におよぼした効果として、2000年までのすべての固形がんおよび白血病による死亡率が報告されている4。また1998年までの固形がん発症の放射線リスクも報告されている5。だが、広範な死亡原因から死亡率を検証するのにDS02が使用されたのは、本論文が最初である。
原爆放射線被曝の死亡率に対する晩発性の影響に関する最も重要な知見は、全生涯を通じたがん死亡リスクの上昇である2。固形がんによって過剰に死亡する率は、集団年齢が上がるのにおおむね比例して上昇を続ける。ほとんどの部位の固形がんについて放射線に関連するリスクが有意に増加している。固形がん発症部位における被曝量と反応の関係は、放射線被曝量とほぼ線形的に比例して増加する傾向が見られた。多くのがん発症部位における相対リスクは児童期に被曝した場合に高かった。絶対的な過剰発症率は到達年齢が上がるにつれて増加し続けたものの、調査対象者の到達年齢が上がるにつれて、また原爆投下後の年数が経過するにつれて、相対的なリスクは低下した。対照的に、白血病発症リスクは原爆投下後の早い時期に増加し、その後減少したが、白血病の被曝量と反応の関係は線形2次連関を示している6,7。このように発症と被曝量・反応様態が異なっていることは、白血病と固形がんでは発病機序(病因)が異なっていることを示唆する。
本報告は、最新の結果の概要を示すとともに、総死亡および、固形がん、白血病、さまざまなタイプのがん以外の疾病を含む主な死因について、DS02線量測定システムにもとづいて、放射線リスクの特徴を示す。前回までの報告に比べて調査期間が伸び、したがって調査結果の数も増えたのにともない、がんおよびがん以外の疾病死にかかわる放射線リスクについて新たな知見が浮かび上がった。本報告の目的は、(1)概要と共通のモデルを用いて、広い範囲の死因による死亡率を比較し、(2)被曝量と反応の関係について、より詳細な分析を施し、被爆時年齢および到達年齢による変化を求め、(3)長期の観察期間にわたる固形がんおよびがん以外の疾病について被曝量反応の形の変化を描写することである。線量および線量率効果係数(DDREF)といった、低線量被曝レベルにおける効果に関する考察にもまた触れられている。白血病に関しては、DS02線量測定システムにもとづく19502000年期の死亡率に関する詳細な分析が最近報告されているので、これ以上詳細な分析は実施されていない。
資料および方法
調査対象人口と追跡
寿命調査(LSS)集団には、原爆投下時に爆心から2.5キロ以内にいた被爆者の大部分、および爆心から2.5ないし10キロの範囲にいた人びとのうちの年齢および性別に応じたサンプルが含まれている。また集団には、1950年に広島または長崎に住民登録していたが、原爆投下時に両市内に不在だった(NIC=市中不在)26,000人分のサンプルも含まれている。LSS報告8およびその後のLSS報告では、おそらく社会人口学的な違い、または他の違いのためであろうが、他のゼロ被曝集団との死亡率の比較可能性に関心があったので、市中不在集団は放射線リスク分析から除外されていた1,8,9。調査対象者は、被曝に関する補足質問項目を備えていた1950年国勢調査、ならびに原爆傷害調査委員会(ABCC)が1950年と51年に実施した2回の調査、および広島と長崎によるそれぞれ1953年と50年の調査にもとづき選別された1。包括的な死亡率追跡調査は1950101日に始まった1。最終的な対象者数は120,314人(広島:82,214人、長崎:38,107人)に達した10。そのうち123人は、人物誤認だったり情報不適切だったりして、研究に利用できなく分析から除外された11。個人DS022002年方式)線量推計は86,611人の被爆者について得られた。別の7,058人については、原爆投下時の居場所や遮蔽について情報が不確かであるため、線量推定がなく分析から除外された11。対象者の総数および市別・性別、DS02線量範囲分布は表1に示されている。

1
DS02線量別、市別、性別LSS集団対象者の数


DS02線量判明の対象者a[重み付け結腸線量(グレイ)
不詳b
市中不在c
合計

総数
<0.005
0.005-
0.1-
0.2-
0.5-
1.0-
2.0+
総数
86,611
38,509
29,961
5,974
6,356
3,424
1,763
624
7,058
26,529
120,321
広島
58,494
21,697
22,733
5,037
5,067
2,373
1,152
435
3,442
20,179
82,214
長崎
28,117
16,812
7,228
937
1,289
1,051
611
189
3,616
6,350
38,107
男性
35,687
15,951
12,342
2,382
2,482
1,414
813
303
3,287
11,143
50,175
女性
50,924
22,558
17,619
3,592
3,874
2,010
950
321
3,771
15,386
70,146
注:計120,321人の対象者のうち123人は、人物誤認または情報不適切のため研究に用いることができなかった。
a
 人数は市中不在集団および線量が未知な集団を含んでいない。この集団は放射線による効果を推定するために採用されている。

b
 線量不詳の人びとは、位置情報が不十分であったり、複合的な遮蔽状況にあったりして、線量を推定できなかった。
c 市中不在:原爆投下時に広島または長崎の街にいなかった。

死亡率追跡調査は、日本全国を網羅し、完成度99%超に達している家族登録システム(戸籍)のおかげで容易になった。少数の人びとは海外移住のために追跡できなくなり、移住時点で除外された。本報告では、20031231日までの追跡データが分析されている。戸籍上でいえば、1900年以前に誕生し、200411日時点で生存している(104歳またはそれ以上)とみなせる人が19人いた。市町村の住民登録で確かめると、5人の生存が確認され、6人が海外に移住し、7人は当局が居住実態を確認できないために住民登録を抹消し、1人については情報が得られなかった。海外移住した6人は移住時点で追跡除外とされた。住民登録を抹消された7人は、抹消時点で原因不明死とされた。情報のない1人は、追跡終了時点で除外された。
対象者の死因は、国際疾病分類(ICD)第7版および第10版にもとづき、訓練されたスタッフによって分類された。ICD番号に対応する疾病分類リストおよび適用年次は243ページの別表に示されている。筆者らは、すべての固形がん、主要な部位のがん、血液・リンパ悪性腫瘍、ならびに血液および造血器官、循環系、呼吸系、消化系、泌尿器系の病気、伝染・寄生性の病気、および外因性の病気についても分析した。
線量測定
本報告は、寿命調査(LSS)報告シリーズのうち、広範な死因による死亡率の知見に、以前のシステムに対して一連の改良を加えた3,11DS022002年線量推定システム)を採用した最初のものである。DS02採用による主要な系統的変化は、広島および長崎両市におけるガンマー線推計の10%増大であり、それにともなって放射線被曝による推定リスクは以前よりもわずかながら低下した4。ガンマー線量に中性子線量の10倍値を加えた合計値である重み付け線量が、中性子線量の大きな生物効果を考慮して採用され、単位はグレイで表されている。中性子の相対生物効果(RBE)は、おそらく低線量において10よりも高い数値の線量低下係数であると考えられるが、広島・長崎原爆の中性子RBEを正確に推計することはできなかった。したがって、以前から採用されてきたRBE定数10を用いた6,27
DS02には、15臓器部位について積算線量を盛り込んでいる。過去の報告を踏まえ、すべての固形がん分析は結腸線量が全臓器を代表するものとして、これを用いているが、血液・リンパ悪性腫瘍分析には骨髄線量を用いている。部位が特定されるがんや主要臓器のがん以外の疾病については対応する特定臓器の線量を用いた。個人線量推計について、4グレイ以上の遮蔽カーマ推計(317人)は、遮蔽や正確な位置などの誤情報にもとづく可能性があるので、4グレイに切り詰められている。無作為の測定エラーによる線量不確定要素を補正するために、未調整のDS02推計に代えて、ピアスほかが開発した方法を用いて予測被爆者線量推計を採用し16、個人線量の35%測定誤差を見込んでいる。
統計方法および分析データ組織化
リスクの放射線量依存を描写し、市別、性別、被爆時年齢別および到達年齢別の線量反応の変異を評価するために、集団別被爆者データについてポアソン回帰法を用いた。有意差検証と信頼区間(CI)は尤度比統計量にもとづいている。上下とも尤度(P)>0.05であれば、その推計結果は統計的に有意であると考えられた。
〔訳注:尤度(ゆうど=Probability)は統計用語。尤(もっと)もらしさ度〕
以前の報告でも用いられてきたが2,5、今回用いたモデルは次のとおりである。
過剰相対リスク(ERR)モデル:
               
λ0c,s,b,a[1 + ERR(d,s,e,a)]
過剰絶対リスク(EAR)モデル:
               
λ0c,s,b,a[1 + EAR(d,s,e,a)]
λ0は、基準すなわちゼロ線量における死亡率であり、市別(c)、性別(s)、出生年(b)、到達年齡(a)に依存している。λ0は、過剰相対リスク(ERR)モデルの層化ならびに、過剰絶対リスク(EAR)モデルの関連係数にまつわるパラメータ係数によって形成される。ERRまたはEARは、放射線量(d)、および必要であれば、性別、被爆時年齡(e)、到達年齡による効果調整に依存している。実際には、ERRおよびEAR関数は、ρ(d)ε(e,s,a)の形式のパラメータ関数として表され、このρ(d)は線量・反応関数の形態を表し、ε(e,s,a)は効果調整を表している。
筆者らはまず、主要死因のERR〔過剰相対リスク〕を効果調整なしの線形的(L)(ρ(d)=βd)を用いて推計したが、それはこの単純なモデルがほとんどのがん部位で通常の方法で比較するのに適用できるからである。ERRモデルは次のとおりである。
                        λ0c,s,b,a[1 + β]
白血病に関して、線形2次モデル(LQ)(ρ(d)=β + β2d2)を用いたが、それは以前のLSS報告がLSSの白血病に関する最良の線量反応を表すことを示唆していたからである4,7
筆者らは次いで、すべての固形がん、および選別された部位のがんについて、ERRおよびEARそれぞれの線形線量モデルに性別、被爆時年齡、到達年令による効果調整を加味したが、それはこのモデルがより正確に放射線リスクを推計でき、選別された主要部位について十分な数の過剰事例をもって適用できるからである。効果調整は、次のような情報関数を用いて表された。
              ε(e,s,a)exp(τe + υlna))(1 +  σs)
τ、υ、σは、それぞれ被爆時年齡、到達年齡、性別による効果調整係数である。調整項目の性別(男性s=1、女性s-1)を含む項によって、βパラメータが性別平均リスク推計を表せるようになる。したがって、ERRモデルおよびEARモデルは、それぞれ次のとおり。
                λ0c,s,b,a[1 + βd・exp(τe + υlna))・(1 +σs)
                λ0c,s,b,a[βd・exp(τe + υlna))・(1 +σs)
筆者らは単純Lモデルに加えて、すべての固形がんについて(性別、被爆時年齡、到達年齡による)効果修正を加味したLQおよび純粋2次(Q)(ρ(d.β2d2)モデルを考察した。LQモデルの線量反応の湾曲は、2次および線形係数(θ.β2/β)の比を用いて検討された。θは純粋線形モデルのゼロから純粋2次モデルの無限大まで分布しうる。
限定的な線量範囲における放射線効果を評価するために、すべての固形がんについて、性別、被爆時年齡、到達年令による効果修正を加味した線形モデルにもとづきERRが推定された[ERR=(βld + βhdexp(τe + υ1na)・(1 + σs))]が、このβldは低線量域における係数であり、βhdは高線量域における係数である。統計的に有意なERR線量反応を示す最低線量域は低線量斜線をゼロから始まって0.01グレイの切点ごとに段階的に上昇する帰無仮説を検証して推計した。すべての固形がんについて閾値線量もまた、d0を閾値とし、d d0のとき、ρ(d)=β1(d- d0)、d d0のとき、ρ(d)0となる線形モデルを、性別、被爆時年齡、到達年令による修正を用いて、性別、年齡、被爆時年齡ごとに調整した線形モデルを用いて推計した。d0のありうる値を求めて、広範な領域を0.01グレイごとに段階的に上げつつ検証し、最大の最大限尤度値を示す点が決定された。線量閾値を決定するにあたり最小限逸脱が用いられ、(自由限界度χ21に対応する)最小限逸脱プラス3.84を示す線量が上下95%CI〔信頼区画〕を決めた。上限がデータにかなった最大閾値を示唆するし、閾値の95%CI下限が0グレイを超過すれば、閾値が存在すると結論できる。
1950年に構成されたLSS〔寿命調査〕集団の構成員は、原爆投下時から1950年まで生き延び、より健康体であり、したがって放射線効果に対してより耐性があるので、選別バイアスがかかっている難点があるといわれてきた。これによる影響を調べるために、がん以外の疾病の線量反応関係が、追跡初期(195065)および後期(19662003)の両期間について、効果修正を加味しないLQモデルを用いて評価された。参照のため、すべての固形がんについての同じ分析が、性別、被爆時年齡、到達年齡による効果修正を加味して実施された。放射線関連の過剰死の数から、およびそれに対応する、非腫瘍性の血液病を除くすべての固形がんとがん以外の疾病による死亡数の合計値から、性別、被爆時年齡、到達年齡による効果修正を加味した線形ERRモデルにもとづき、寄与割合が推計され、結果の2類型の比較ができるようにした。過剰死を推計するためのCI〔信頼区画〕は多変数デルタ法によって推計された。
分析は、市別、性別、被爆時年齡、到達年齡、追跡期間、放射線量といった交差分類データの詳細な作表にもとづく。被爆時年齡の分類は、0歳から69歳までを5歳ごとに区切り、それ以上を70歳以上とした。到達年齡分類は5歳から99歳を5歳ごとに区切り、それ以上を100歳以上としている。線量分類の切点は、0.005, 0.02, 0.04, 0.06, 0.08, 0.1, 0.125, 0.15, 0.175, 0.2, 0.25, 0.3, 0.5, 0.75, 1.0, 1.25, 1.5, 1.75, 2.0, 2.5,および3グレイである。追跡期間は5年間隔で区切った。

2
2004
11日時点、被爆時年齢別、既知のDS02線量を被曝したLSS集団メンバーの
観察人・年数および死亡数
被爆時年齡
対象者数
観察人・年数
死亡数a
生存
0–9
17,833
910,347
2,200
88%
10–19
17,563
848,826
4,887
72%
20–29
10,891
494,021
5,178
52%
30–39
12,270
462,694
10,410
15%
40–49
13,504
365,240
13,397
1%
50+
14,550
213,079
14,548
0%
合計
86,611
3,294,210
50,620
42%
a この項目の数値は、市中不在、線量が未知の者、行政による戸籍抹消、その他の理由により除外された者を含まない。

表の各セルの基本データは、特定死因による死亡数および人・年数を単位とする危険時である。セル特有の平均値は、ガンマー線および中性子線量および年齡/時間変数を含んでいる。パラメータ推計および検証は、エピキュア-・ソフトウエアを用いた尤度にもとづく(19)。下限が推定不能の場合、d_maxを最大限個人線量として、ERRの潜在的な下限は-1/d_maxであると考えられた。
結果
DS022002年版被曝線量推計システム〕線量が推計された86,611人の対象者のうち、50,620人(58%)が追跡期間中に死亡した(表2)。40歳以上の年齡で原爆放射線に被曝した人たちの99.6%が死亡した一方、20歳未満で被曝した人びとの優に80%はまだ生存している。特定死因で死亡した人びとの数は表3に示されている。死亡数の22%の死因は固形がん、1.4%は白血病および造血器官の悪性腫瘍、71%は非腫瘍性の疾病、5%は外的死因である。
特定部位がんの過剰リスク
主要がん部位を含む主要死因の放射線リスクは図1に示されている(単純な線形モデルのERR)。総死亡のグレイあたりERR〔過剰相対リスク〕ERR/Gy)は統計的に有意であって、0.22である(95 CI: 0.18, 0.26)。総固形がんのリスク推計も0.47であった(95% CI: 0.38,0.56)。腎臓骨盤および尿管のがんについて最大のERRが見られ、次いで胸部(女性のみ)、そして推計のCIs〔信頼区画〕にはかなりの重複があるが、降順に他の消化系、膀胱、卵巣(女性のみ)、肺、結腸、食道、胆嚢、肝臓、胃と続いた。腎盂および尿管のERR推計は症例数が少なくて、著しく不安定である。直腸、膵臓、子宮(女性のみ)、前立腺(男性のみ)、腎臓組織など、他のがんについては有意な増加が見られなかった。
95CIをともなう性別特有のERRは表3に示されている。女性に関する性別特有のERR/グレイは総死亡数およびすべての固形がんの両面において男性のそれの2倍内外高い。ほとんどの部位におけるがんのERRもまた、女性の場合に高かった。性別間で放射線効果の強度になんらかの顕著な違いがあった。胆嚢、腎盂、尿管のがんのリスクは、男性で増加し、女性ではそうでなかったが、胃、直腸のがん、その他の消化器疾病では、男性ではなく、女性の場合に放射線リスクの増加が見られた。しかしながら、男性と女性のCIはすべての場合で重なっている。
白血病の性差平均ERRは、LQモデルにより、1グレイ時に3.1 (95% CI: 1.8, 4.3)0.1グレイ時に0.15 (_0.01, 0.31)だった。しかしながら、悪性リンパ腫あるいは多発性骨髄腫の場合、ERRは有意でなかった(図1)。なんらかの明白な性差があった。つまり、悪性リンパ腫は男性でのみ有意に増加し、多発性骨髄腫は女性でのみ有意に増加した(表3)。
性別、被爆時年齡、到達年齢による効果修正推計は、すべての固形がんおよび主要部位のがんについて表4に示す。左の欄は、30歳時に被曝し、到達年齢が70歳になった対象者の性差平均化ERR/Gyを示す。右の欄は、効果修正要素のパラメータ推計を示す。女性のERR/Gyは男性よりも約2倍高く、すべての固形がんと胃および肺のがんで、その比率は1をかなり上回っている。図2で示すように、固形がんのERR/Gyは被曝年齢が10歳上がるごとに-29%低下しており、到達年齢の-0.86の乗数の割合で低下しているので、これら二つの効果修正要素は重要である。特定部位のがんの年齢効果はすべての固形がんのそれに似ていたが、そのほとんどは統計的に有意ではなかった。
同じがんのEAR〔過剰絶対リスク〕モデルを用いた推計を表5に示す(3部位については、表4ERRまたは効果修正の意味で有意でない結果になったので除外)。左の欄は、性差平均化EAR/104人・年/Gyを示す。右の欄は、効果修正要素のパラメータ推計である。EARでは、すべてのがんでも、主要な特定タイプのがんでも、男女差はなかった。図3で示されるとおり、すべての固形がんについて、被爆時年齢が10歳上がるごとにEARが-19%とかなりの低下を見た。特定がん部位の推計は同じような傾向を示したが、ほとんどは有意でなかった。すべてのがんについて、効果修正要素である到達年齢の3.4の乗数の割合でEARがかなり上昇し、主要部位のがんでもかなり上昇した。
LLQQモデルの適合性もすべての固形がんについて、全線量域にわたって比較された(表6の左欄)。LおよびLQモデルでは逸脱の有意な差はなく(P0.36)、2次項は不必要であることを示唆していた。QモデルはLまたはLQモデルよりも有意に劣悪な適合性を示していた。さらに、Lモデルは最小の赤池情報基準(AIC)を示し(20)、LQモデルはLモデルよりも1.2ポイント高い値を有し、Qモデルにいたっては、23.7ポイントも大きく、これは最悪の適合性であることを示唆した。以上の違いは、表6の逸脱から計算された。結果として、Lモデルが全線量域にわたって最良のモデルとして選ばれた。図4は、LおよびLQ関数による線量依存の推計プロットを示している。
全線量域において線形モデルが最良の適合性を示したが、線量域を02グレイに絞ると、統計的に有意な上方湾曲が観測された(θ=0.81P0.02)(表67)。02グレイ域の湾曲は時間経過とともに膨らみ、195085年期のθ=0.20から19502003年期には0.81になり、観測が長引くにつれて有意になっていった(表7)。
過剰相対リスク(ERR)は線形モデルに基づき、市、性、被爆時年齢、到達年齢で調整してある。
グラフの横線は95%信頼区間を示す。
プロットの点の大きさは死亡数に比例する。
白血病のERR は線形二次モデルで、1Gy 3.195%CI: 1.8, 4.3)、0.1Gy 0.15-0.01, 0.31)。95%信頼区間の下限は未満であるが、特定の値は算出不能。




3
性別、特定死因別、死亡数およびグレイあたり過剰相対リスク(ERR)推計
死因
準拠被曝部位
男性
女性
死亡数
ERR/Gya
95CIb
 P
死亡数
ERR/Gya
95CIb
P
総がん
結腸
22302
0.15
(0.10, 0.20)
0.001
28318
0.30
(0.24, 0.35)
0.001
がん









総固形がん
結腸
5235
0.31
(0.21, 0.42)
0.001
5694
0.66
(0.52, 0.80)
0.001
食道
260
0.39
(_0.006, 0.97)
0.054
79
1.1
(0.04, 3.0)
0.04
1689
0.13
(_0.02, 0.30)
0.09
1436
0.51
(0.28, 0.78)
0.001
結腸
結腸
262
0.50
(0.09, 1.09)
0.01
359
0.58
(0.16, 1.1)
0.003
直腸
膀胱
99
–0.26
(NAc, 0.19)
0.18
228
0.66
(0.06, 1.5)
0.03
肝臓 
肝臓
879
0.30
(0.08, 0.58)
0.006
640
0.46
(0.15, 0.85)
0.002
胆嚢
肝臓
121
0.85
(0.19, 1.9)
0.005
298
0.23
(_0.12, 0.76)
0.24
膵臓
膵臓
210
0.22
(_0.17, 0.83)
0.33
303
–0.06
(NAc, 0.43)
0.5
その他
消化器系



(NAc, 2.33)





結腸
33
0.26

0.5
51
2.6
(0.51, 6.6)
0.005
901
0.40
(0.17, 0.67)
0.001
657
1.1
(0.68, 1.6)
0.001
胸部
胸部
6
9.1
(0.52, 128)
0.01
324
1.5
(0.93, 2.3)
0.001
子宮
子宮



547
0.22
(_0.09, 0.64)
0.19
卵巣
卵巣



157
0.79
(0.07, 1.9)
0.03
前立腺
膀胱
130
0.33
(NAc, 1.2)
  0.30



膀胱
膀胱 
100
0.88
(0.02, 2.3)
0.04
83
1.5
(0.21, 3.8)
0.02
腎実質
結腸
42
0.11
(NAc, 1.4)
0.5
38
1.5
(0.01, 4.9)
0.049
腎盂・尿道
結腸
13
3.5
(0.25, 14)
0.02
20
1.9
(NAc, 8.0)
0.13
その他
結腸
390
0.36
(0.02, 0.83)
0.04
474
0.54
(0.14, 1.0)
0.005
リンパおよび造血器官悪性腫瘍








白血病
骨髄
163
4.6
(3.0, 6.9)
0.001
155
3.9
(2.5, 6.1)
0.001
悪性リンパ腫
骨髄
125
0.70
(0.08, 1.7)
0.02
159
–0.18
(_0.21, 0.24)
0.33
悪政骨髄腫
骨髄
34
0.11
(NAc, 1.6)
0.5
59
0.86
(0.02, 2.5)
0.04
他の腫瘍
結腸
224
0.30
(_0.10, 0.88)
0.17 
294
1.1
(0.44, 2.0)
0.001
非腫瘍性の疾病








血液病
骨髄
80
1.8
(0.68, 3.8)
0.001
158
1.6
(0.76, 2.8)
0.001
循環器病
結腸
7607
0.07
(_0.001, 0.16)
0.053
11447
0.14
(0.06, 0.23)
0.001
呼吸器病
結腸
2401
0.16
(0.02, 0.31)
0.02
2718 
0.28
(0.11, 0.47)
0.001
消化器病
結腸
1659
0.05
(_0.09, 0.23)
0.50
1735
0.18
(_0.01, 0.40)
0.07
泌尿器病 
結腸
449
–0.07
(NAc, 0.28)
0.5
860
0.28
(0.01, 0.62)
0.04
感染病
結腸
1043
0.01
(_0.16, 0.22)
0.5
919
–0.07
(NAc, 0.18)
0.5
その他の疾病
結腸
1830
0.03
(_0.12, 0.21)
0.5
3017
–0.01
(_0.15, 0.15)
0.5
外因
結腸
1372
–0.24
(NAc, _0.11)
0.001
1060
0.14 
(_0.07, 0.41)
0.21
a ERRは、市、被爆時年齡、到達年齡が背景率に含まれるが、放射線効果修正要素とはならない線形線量モデルを用いて推計された。
b
下限値は推定不可であるが、示唆される下限界(1/d_max)は、男性で_0.28、女性で_0.27である(本文参照)



4
主要がんの過剰相対リスク(ERR)モデルaの効果修正




性差(σ)

被爆時年齡(τ)




性差平均化ERR/Gyb

(ERR比率: /)

(10年期増分の%変化)

到達年齡(υ)(累乗)

(95% CIc)

(95% CI)

 (95% CI)

(95% CI)
総固形がん
 0.42
(0.32, 0.53)

2.1
(1.4, 3.1)

-29%
(-41%, -17%)

-0.86
(-1.60, -0.06)
食道がん
0.60
(NA, 1.64)

4.3
(0.54, 100)

35%
(-28%, 184%)

-3.7
(_9.6, 1.0)
胃がん
0.33
(0.17, 0.52)

3.7
(1.3, .100)

-18%
(-47%, 20%)

-0.74
(-2.5, 1.2)
結腸がん
0.34
(0.05, 0.74)

1.4
(0.39, 6.6)

-3%
(-51%, 63%)

-5.8
(-10.4, -2.2)
肺がん
0.38
(0.11, 0.62)

1.6
(0.43, 7.9)

-8%
(-62%, 42%)

0.02
(-2.8, 4.2)
胆嚢がん
0.48
(0.12, 1.02)

0.42
(0.001, 2.4)

-27%
(-76%, 40%)

-1.9
(-6.6, 7.8)
肺がん
0.75
(0.51, 1.03)

2.7
(1.3, 6.8)

–7%
(-35%, 29%)

-0.04
(-2.2, 2.6)
乳がんd
0.90
(0.30, 1.78)

  –

-45%
(-67%, -17%)

-0.17
(-2.7, 2.3)
膀胱がん
1.19
(0.27, 2.65)

1.7
(0.2, 9.0)

-2%
(-62%, 92%)

0.49
(-3.6, 6.1)
子宮がん
0.20
(NA, 1.30)

–  

-22%
(-96%, 218%)

-4.1
(-33, 1.9)
a ERRモデルは、dを線量、Sを性別、bを出生年、eを被爆時年齡、aを到達年齡として、λ0c,s,b,a)[1 + β1dexp(τe + υ1na))・(1 + σs)と定義される。τ、υ、σは効果修正係数である。
b 性差平均化ERR/Gyは、30歳で被曝した後、70歳に達した対象者について記されている。
c 95%信頼度間隔
d 女性のみ

しかしながら、0.3グレイ以下の推計ERRは、最適線形斜線、または02グレイと図4に示す全線量域のいずれかのLQ関数よりもわずかに高かった。0.2グレイを切点とする2次スプライン関数は低線量域において高めの推計を出すはずだが、LQ関数(P0.16)よりも有意に良好な適合性を示さなった。さまざまな低線量域で計算した線形関数のERR/Gyは、0.1グレイ以下の領域で、高線量域で得られる推計に比して、高い値を示したことは特筆に価する。すなわち、低線量域では斜線が高線量レベルにおけるよりも凹みが少ないのである。

すべての固形がんについて有意なERRの最低線量は、0.5695CI0.151.04P0.01)の推計ERR/Gyを示す0ないし0.20グレイであり、これには74,444人が含まれ、固形がんによる死亡数は9,063である。0ないし0.18の領域では、ERR/Gy0.43 (95 CI: 0.0047 0.91 P 0.052)であり、線量閾値の最大尤度推計は、0.0グレイであり(すなわち、閾値なし)、逸脱を最小限にすることにより決定された推計上限は95CIとして0.15グレイである。
被爆時年齢および到達年齢別、すべての固形がんの過剰相対リスク(ERR)の修正


5
主要がんの過剰絶対リスク(EAR)モデルaの効果修正

性差平均化EAR/

性別 (σ) (EAR比率:

被爆時年齢 (τ)



104 PY/Gyb

(男/)

(10年期ごとの%変化)

到達年齢 (υ) (乗数)


(95% CI)c


(95% CI)


(95% CI)


(95% CI)
すべての固形がん
26.4
(20.3, 32.8)

1.1
(0.80, 1.74)

–19%
(-31%, -7%) 

3.4
(2.7, 4.1)
胃がん
4.1
(2.1, 6.7)

1.8
(0.66, 32)

18%
(-18%, 62%)

2.0
(1.0, 3.6)
結腸がん
1.6
(0.5, 3.0)

0.98
(0.34, 4.5)

–30%
(-58%, 2%)

3.2
(1.3, 5.3)
肝臓がん
3.4
(0.7, 5.9)

0.69
(0.19, NA)

–25%
(-66%, 15%)

6.0
(3.2, 12)
肺がん
6.5
(4.3, 9.0)

0.78
(0.40, 1.8)

–16%
  (-37%, 6%)

6.2
(4.5, 8.2)
乳がん
2.3
(1.0, 3.8)

–  

–51%
(-68%, -30%)

3.0
(1.7, 4.7)
膀胱がん
1.2
(0.3, 2.4)

0.40
(0.0, 5.3)

–1%
(-65%, -80%)

7.5
(3.1, 15)
a EARモデルは、λ0c,s,b,a+ β1dexp(τe + υ1na)・(1 + σs)と定義する。パラメータは表4に既述。
b 性差平均化EAR/104人・年/Gyは、被曝年齢30歳、到達年齢70歳の対象者について示されている。
c 95%信頼度間隔
d 女性のみ

がん以外の疾病の過剰リスク
血液病(ERR/Gy1.7, 95 CI: 0.96, 2.7)、循環器病(0.11, 95 CI: 0.05, 0.17)、呼吸器病((0.21, 95 CI: 0.10, 0.33)といった非潰瘍性の疾病でリスクが有意に増大した。悪性でない呼吸器病のなかで、肺炎およびインフルエンザのリスクは有意に高まった((ERR/Gy0.2495 CI: 0.10 0.403,244死亡数)。感染病を含む、他の非腫瘍性疾病では、女性の泌尿器病を除き、両性ともに放射線リスクの上昇は示されなかった。外因による線量関連の過剰死亡リスクはなかった(図1、表3)。
長期追跡期間の線量反応の変化について、循環器、呼吸器、消化器病のリスクのすべてが、1965年以後の期間に有意に大きくなった(表8)。肺炎およびインフルエンザのリスクもまた後期になって高くなった(ERR/Gy0.2595% CI:0.100.43)が、主要な消化器病である肝硬変は全期間を通じても、あるいは1965年以降の期間もリスクが上昇しなかった(それぞれ、ERR/Gy0.1195% CI:0.070.34 および 0.1795% CI:0.040.42)。
被爆時年齢、到達年齢別、すべての固形がんの過剰絶対リスク(EAR)の修正
初期(195065年)および後期(19662003年)追跡期間のがん以外の疾病死亡率の線量反応関係を図6に示す。初期の関係(点線)は約1.5グレイ未満で基本的な放射線効果を示していないが、その一方、後期の関係はがん以外の疾病についてほぼ線形の線量・反応関係を全体として示しており、期間ごとの形態の違いは有意であった(パネルAP0.02)。がん以外の疾病のうち、循環器病は期間ごとの違いを示さなかった(パネルBP0.05)が、呼吸器病および消化器病の両者とも期間ごとの違いをわずかに示し(それぞれ、パネルCP0.07およびパネルDP0.06)、またすべての固形がんの一時的な違いは有意でなかった(パネルEP0.18)。LおよびLQの期間ごとの適合性を比較すると、LQ関数がすべてのがん以外の疾病について初期において有意に良好な適合性を示し(P0.04)たが、後期にはそうでなかった(P0.29)。同様なパターンが呼吸器病においても見られた(それぞれ、P0.01およびP0.35)。LおよびLQの適合性について、どちらの期間でも循環器病(初期P0.23、後期P0.5)、消化器病(それぞれ、P0.5P0.22)、あるいは固形がん(それぞれ、P0.5P0.39)における違いはなかった。
1950年から2003年までのLSSにおける放射線関連過剰死亡数の推計を表9に示す。固形がんの過剰死亡は527と推計された(95% CI157899)。結腸線量が0.005グレイ以上(平均線量0.2グレイ)の集団構成員の死亡のうち、約8.3%(=525/6308)(95% CI:2.6%、14%)が放射線関連であるようだった。放射線寄与分のパーセンテージは、0.10.20.20.50.51122グレイ以上の線量域(人・年過重平均線量は、0.140.310.721.42.5グレイ)においてそれぞれ、5.8%、13%、25%、35%、57%であった。がん以外の疾病による過剰死亡数は、効果修正を加味したERRモデルを用いて353と推計された(95% CI:-252958)。結腸線量0.005グレイ以上の人たちの約1.8%(95% CI-1.2%、4.8%)は放射線関連らしかった。ERRが小さく、背景比率が大きい場合、効果修正要素は正確さが低くなると推定されるので、効果修正を加味しないERRモデルでは、この数値は1.9%になった(95%、CI1.2%、2.7%)

考察
死亡率に対する原爆放射線被曝の晩発性効果に関する最も重要な知見は、生涯にわたってがん死亡の率が増大し続けることである(2)。最近のデータが、被爆者の生涯を通してすべての固形がん死亡のリスクが放射線量にほぼ比例して増大し続けることを示した。被爆時年齢が30歳で被曝した後、70歳になった時の固形がん死亡率の性差平均相対過剰は、被爆時年齢、到達年齢による効果修正を加味した線形モデルにもとづき、グレイあたり42%となる。同じ条件のもとでのすべての固形がんによる性差平均過剰死亡率は、グレイあたり26/10,000人・年だった。二番目に重要な知見は、年齢が若いときに被曝した人びとは、がん死亡の相対リスクが高くなることである。すなわち、10歳で被曝した人びとが70歳になった時の固形がん死亡の性差平均ERRは、40歳のときに被曝した人が0.30であるのに対して、0.83になっている。重大なことに、過剰絶対率が到達年齢とともに増大し続け、年齢が若い時に被曝した人びとの率は、同じ到達年齢の人びとの中でも高いにもかかわらず、固形がんの相対リスクは、対象者の到達年齢が上がるにつれ、また原爆投下後の年数が経過するにつれ、減少した。これらの知見は、若い人々は高齢者よりも放射線に対する感受性が高いことを示唆しており、被爆時に発がんの開始段階にあって、若い年齢のときに被曝した人たちの生涯リスクが全般的に増大することを示唆している。



6
全線量域および02グレイ領域における
すべての固形がんの過剰相対リスク(ERR)の線量・反応モデルのパラメータ推計

全線量域

2グレイ以下の線量域
線量域モデルa
Lb
LQ
Q

L
LQ
Q
β1:線形
0.42
0.36

0.44
0.22
β22
0.038
0.22

0.18
0.33
効果修正







σ: 性別(女性=1; 男性=-1)
0.34
0.35
0.40

0.28
0.29
0.29
τ: 被爆時年齢(歳)
–0.035
–0.034
–0.035

–0.033
–0.034
–0.035
υ: 到達年齢 (log(70))
–0.86
–0.86
–0.90

–0.84
–0.89
–0.97
逸脱
18301.2
18300.4
18324.9

17557.3
17551.6
17557.2
df
53147
53146
53147

49577
49576
49577
検証(vs. LQモデル)
P0.36
P0.001

P0.02
P0.02
注:太字は選別モデル
a dを結腸線量、sを性別、bを出生年、eを被爆時年齢、aを到達年齢として、ERRモデルはλ0(c,s,b,a) [1 + ρ(d) exp(τ e + υln(a))(1 + σs)]と定義される。ρ(d) は線形モデルの場合、β1dであり、 線形2次モデルではβ1d + β2d22次モデルではγd2となり、τ、υ、σは効果修正のための係数である。 
b L:線形、 LQ:線形2次、Q2
図4 総固形がん死亡に対する放射線による過剰相対リスク(ERR)の線量反応関係
ERR の線量反応関係は全線量域では直線モデル(L)が最もよく適合したが、2Gy 未満に限ると線形二次モデル(LQ)が最もよく適合した。これは、0.5Gy 付近のリスク推定値が直線モデルより低いためであった。
図中の点と縦線は線量カテゴリーごとの点推定値と95%信頼区間である。点線は、全線量域で最適であった線型モデル(L)の95%信頼度区間である。



7
観測期間別、02.0グレイ線領域における
すべての固形がんの過剰相対リスク(ERR)の線量・反応曲率の変化

1950–1985
1950–1995
1950–2003
曲率(θ)a
0.20
0.40
0.81
95% CIb
(-0.23, 3.2)
(-0.09, 3.2)
(0.08, 8.6)
有意度 (P)c
0.50
0.16    
0.02
a ERRモデルは、dを結腸線量、sを性別、bを出生年、eを被爆時年齢、aを到達年齢として、それぞれの分析期間ごと個別に、λ0c,s,b,a)[1 + β1d + θd2)・exp(τe + υ1n(a))・(1 + σs)]と定義された。τ、υ、σは効果修正係数。
b 信頼度間隔
c 尤度検証

継続性を維持するために、分析手法とリスク指標は1987年以降の報告で用いられてきたのと同じである(2,10)。前回の報告では、DS86DS02では線量測定法が変わったことにより、2000年までの死亡率データが放射線の推測リスク変更のために検証された。その報告では、ガンマー線推計が上方修正されたので、放射線量の単位あたりの固形がんリスク推計は約8%減少することになった。19502000年期間のすべての固形がんのグレイあたりERRは、DS86準拠の0.45からDS02準拠の0.42に減少した。この研究のグレイあたりERRの推計および固形がんの修正項(表4)は後者の報告と同じである(4)。効果修正結果は、DS86を用い、追跡期間も短かった以前の推計とおおむね同じような傾向を示した(2,5)。
効果修正は、ERRモデル(表4)とEARモデル(表5)に対して評価された。ERR推計値は男性よりも女性のほうが大幅に高かったが、EAR推計値ではそうならなかった。このことは、この集団における男性のほうが女性よりも、がんのバックグラウンド死亡率が高いという事実のせいであるようだ。同様に、バックグラウンド死亡率が低いがんの場合、ERRは比較的に高い傾向があり、その逆も真であることも見受けられた。EARの性差近似性は、放射線由来の死亡過剰が、バックグラウンドがん罹患率に対して、比例というより主として比率に即している(つまり、乗算的というよりも加算的である)ことを示唆している。この解釈は、上記のがん部位の違いによるERRの違いにも一致して通用する。

5. 選別された線量域別、すべての固形がんのグレイあたり過剰相対リスク(ERR/Gy)。図は、所与の線量の上下にまたがる異なったERRを斟酌し、放射線効果修正項を二つの線量域において共通とした、すべてのデータを盛り込んだ線形モデルにもとづくゼロから所与の線量までの線量域についてERR/Gyおよび95CIを示す。0.1グレイ未満の低線量レベルにおけるERR/Gyの増大は、図4における線形予測よりも高いERR推計に対応する。

                                  表8
19662003年、グレイあたりがん以外の疾病死亡の過剰相対リスク(ERR)推計
死因
死亡数
ERR/Gya
(95% CIb)
P
がん以外の疾病
25,618
0.13
(0.08, 0.18)
0.001
循環器病
14,586
0.11
(0.05, 0.18)
0.001
呼吸器病
4,190
0.23
(0.11, 0.36)
0.001
消化器病
2,226
0.20
(0.05, 0.38)
0.009
泌尿器病
951
0.18
(-0.06, 0.46)
0.15
感染病
781
-0.03
(-0.22, 0.23)
0.5
その他の疾病
2,884
0.03
(-0.11, 0.19)
0.5
a ERRは線形線量モデルを用いており、市別、性別、被爆時年齢、到達年齢はバックグラウンド比率に含まれているが、これらの要因は放射線効果修正に用いられていない。
b
信頼度間隔。
c
非腫瘍性の血液病はがん以外の疾病から除外されている。

放射線由来の発がんにおいて、被爆時年齢は重要な修正要因である。被爆時年齢が若いほうが、ERREARの両方とも高かった(表4,5、図2,3)。しかしながら、他の報告(たとえば、BEIR〔電離放射線の生体影響に関する諮問委員会〕VIIUNSCEAR〔原子放射線の影響に関する国連科学委員会〕2006年報告)は、60歳またはそれ以上の高齢時に被曝した人びとのERRが、特に発がん事象データの場合、40歳代または50歳代で被曝した人びとのリスクと同等であるか、またはそれ以上に高かったと示唆している(5,21,22)。最新研究におけるすべての固形がん死亡リスクに対する被爆時年齢効果の非母数範疇に特定した推計は、高齢時被曝によるリスク増大がプレストンほか(5)が報告した数値ほどには顕著でないとするウォルシュ(22)が報告した、これに対応する数値と類似していた。
本研究において、線形線量・反応関係が線量域全体を通じて固形がんデータとの最良な適合性を提示したが、以前の報告(4,5)で示唆されていたように、02グレイで区分した線量域では有意の上方湾曲が見受けられた(図7)。DDREFは、低線量レベルにおける非線形関数斜線を線量域全体にもとづく外挿線形非閾値関数斜線で分割することによって確定するので(23)、この上方湾曲はDDREF1よりも大きいことを示唆している。しかしながら、0.1グレイ以下の線量の線量・反応斜線は、全体または02グレイ線量域の場合よりも顕著に急だった(図5)。明白な上方湾曲は、0.30.7グレイ線量域で予測されるよりも比較的低いことに関連しているようであるが(図4)、納得できる説明のつかない知見である。最近の論文(24)が、低線量率、中線量被曝(主に外部被曝)に関する12研究のがん死亡リスクと事象をLSS数値と比較している。LSSにおいて、各々の研究の線量あたりERRは、同じ性別分布、平均被爆時年令、平均到達年齢を用いて計算された。それらの研究における線量あたりERRの、LSSにおけるERRに対する比率にもとづいて予測されたDDREFは、1.0に近いようであり、顕著なことにBEIR VII (1.5) (23)ICRP (2.0) (25)が示唆した因数よりも低かった。しかしながら、LSSに適合する数値を計算できるだけの条件を備えた、査察済みの研究の数が20022007年出版期のものに限られ(24)、まだ議論の余地がある。
6 初期(195065年、点線で示す)および後期(19662003年、実線で示す)における、(効果修正を加味しないLQにもとづく)がん以外の疾病および(効果修正を加味するLQにもとづく)すべての固形がんの線量・反応曲線aの比較。a がん以外の疾病の効果修正を加味しない線形2次モデルとして定義されるERRモデル【dを結腸線量、sを性別、eを被爆時年齢、aを到達年齢として、λ0c,s,e,a[1 + β(d + θd2)]】およびすべての固形がんの効果修正を加味するモデル【λ0c,s,e,a[1 + β(d + θd2)exp(τe + υ1n(a))(1 + ss)]】にもとづく。すべての固形がんの数値は、e30歳、a70歳時の性差平均推計を示す。b 2本の線の違いの有意度


9
固形がんおよびがん以外の疾病による実際の死亡数および過剰死亡数



固形がん

がん以外の疾病
結腸線量(Gy)
対象者数
人・年
死亡数
過剰死亡数a
寄与割合()

死亡数
過剰死亡数b
寄与割合()
0.005
38,509
1,465,240
4,621
2
0 

15,906
1
0 
0.005–
29,961
1,143,900
3,653
49
1.3

12,304
36
0.3
0.1–
5,974
226,914
789
46
5.8

2,504
36
1.4
0.2–
6,356
239,273
870
109
12.5

2,736
82
3.0
0.5–
3,424
129,333
519
128
24.7

1,357
86
6.3
1–
1,763
66,602
353
123
34.8

657
76
11.6
2+
624
22,947
124
70
56.5

221
36
16.3
合計
86,611
3,294,210
10,929
527
4.8

35,685
353
1.0
a ERRモデルにもとづく過剰死亡数は効果修正を加味した線形モデルとして決められる:λ0c,s,b,a[1 + β1dexp(τe + υ1(a))・(1 + σs]
b
非腫瘍性の血液病はがん以外の疾病から除外されている。

低線量域で線量単位あたりのリスクが高いのが観測されたことは、解釈が困難である。ひとつ考えられることは、長年にわたる追跡期間中に診断医療用の放射線被曝が蓄積して、低線量域における推定個別原爆線量の無視できない割合に達したのかもしれないというものだった(26)。しかしながら、ERR推計に影響するにしても、医療被曝やフォールアウトおよび残留放射線を含むその他の被曝源は対象者に生化学的に非常に低い線量を被曝させたにすぎないはずである。LSSにおいて、最大50ミリグレイ線量の対象者は爆心から2ないし4kmの範囲にいたのに比べて、ゼロ被曝対象者は約4km以遠の位置にいた。したがって、このように広大な地理分布を考えれば、追加的な放射線源による別種の被曝は信じがたいものであるが、筆者らにはこの可能性を完全に除外するだけのフォールアウトや残留放射線に関する情報の持ち合わせがない。
線量に関連する形のものとして、放射線以外の潜在的原因には、研究開始に先立つ初期死亡率に起因する選択バイアス(偏向)がある(たとえば、都市居住者の高線量と地方居住者の低線量)(1,2,5,27,28)。示唆的なことに、低線量であっても比較的に近距離の被爆者は遠距離の被爆者に比べて低基準の死亡率が見受けられているが、このことは、都市・地方差といった社会人口学的な要因のほうが線量にもとづく選択効果よりも重要なのかもしれないことを示唆している(1,2,27,28)。しかしながら、長年にわたる日本人のライフスタイル現代化のため、社会人口学的な選択効果は弱まったかもしれない。線量影響に関連する事柄、LSSにおけるがん以外の疾病死亡率に対する潜伏や社会人口学的ライフスタイルといった要因はさらなる検討を必要としている。
LET(線形エネルギー伝達)放射線の外部被曝による特定部位がんリスクに関するさまざまな研究が、UNSCEAR 2006年報告に記録されている(6)。ほとんどの研究は放射線治療などの高線量放射線の対象者か低レベル被曝の放射線労働者のいずれかに基づいている。したがって、このLSSは、大規模であること、広範におよぶ比較的に正確な個人線量にもとづくこと、おびただしい数の疾病を観察していること、追跡期間が長期にわたることから最も信頼しうる放射線効果推定を提示していると考えられることが多い。食道、胃、結腸、肺、胸部、卵巣、膀胱のがん、および腎臓、骨盤、尿管の過渡期細胞がん腫は、LSS、その他の研究にもとづき、低および高線量放射線に関連していると考えられている(6)。肺がんリスクにおける放射線と喫煙の強固な相互作用が観測されている(29)ので、喫煙関連のがんの高ERRは、部分的にそのような相互作用のせいであるかもしれない。直腸がんは高線量医療被曝に誘発されると考えられている(6)が、LSSのうちでは関連が観測されていない。一方、肝臓がんと放射線被曝の関連は、低LET放射線への医療および職業被曝の研究では証明されていないが、LSSは有意のリスク拡大を示した(6)。HCVC型肝炎ウィルス)感染と放射線の相乗効果があるのか(30)、またはそれぞれ別個に作用しているのか(31)については結論にいたっていない。膵臓、前立腺、子宮頸部のがんは放射線と関連していないと考えられている(6)が、これはこの研究の結果と一致している。子宮体部、腎臓実質のがんは、おそらく高線量放射線被曝と関連している(6)が、この関連は本研究では観測されていない。
白血病の過剰事例のほとんどは、原爆投下後の短期のうち、LSSが始まりもしないうちに出現した(32)が、これまでの数十年にわたり低レベルながら控えめに増大し続けている(1,7)。本研究において、白血病総数に対する推計ERRは、313例を対象に効果修正を加味しない線形2次モデルを用いた結果、3.195CI1.84.3)であり、これは最近のもっと詳細な白血病報告(7)に近似している。最近、LSSにおける悪性リンパ腫の分析が、原爆投下時に労働年齢だった男性の小集団を対象に実施された(33)。現在の研究は同様に男性の過剰[ERR/Gy0.70P0.02)を認めたが、女性[ERR/Gy=-0.18P0.33)]には関連がなかった。筆者らには男女の結果の不一致の説明がつかず、放射線効果は男女差およびリンパ腫の表書きの下に隠れた悪性度の多様さの両面から慎重に解釈しなければならないと信じる。多発性骨髄腫死亡率に関する初期の報告(34)は、統計的に有意な過剰を示していない。しかし、プレストンほか(35)は、白血病および腫瘍登録リストから血液学的に検討したごく普通の症例を対象に、遮蔽カーマ4グレイ未満の第一初期症例30件にもとづきERR/Gy0.25P0.5)を示し、第二初期7事例および遮蔽カーマ4グレイ超のものを加えてERR/Gy0.9P0.02)を示した。現在の研究(すべて骨髄線量4グレイ以下)では男女それぞれ3459事例にもとづき、多発性骨髄腫のERR/Gyは男性で0.11P0.5)、女性で0.86P0.04)となっている。
LSS死亡率研究の強みは、既述した(2,4,34)ように、(11950年に生存していた原爆被爆者の全年齢層を網羅し、層別サンプリングを施し、サンプルの高線量割合を充実させた、大規模で代表的なサンプル、(2)個別線量の合理的に正確な推計、(3)集団の広範な線量域、(4)戸籍制度を用いた死亡率と死因の完全な確認、(5)多数の死亡に対する長期観察にある。これらの強みが高品質、情報豊富な疫学研究を支える。
LSSの潜在的な制約は、対象者が、原爆による身体的な負傷と熱傷、決定的な放射線効果による生物学的な損傷を受けた「被爆者」であることにあった。それに加わるストレス要因には、戦後期日本の栄養不良と劣悪な衛生状態があった。これらの条件は初期死亡を誘引したかもしれず、したがって、1950年に得られた対象者から、放射線弱者を含む弱者を選択的に除外したかもしれない。それでもなお、がん発生のような確率論的な晩発性健康効果はそのような選別バイアスに影響されているようには思えず、すべての固形がんについての初期および後期の線量・反応曲線(図6)に無視しうる不一致として支えられている。この現象を慎重に分析するためには、時期、がん部位、その他の要因の解析が必要であろう。もうひとつの避けられない除外は、おそらく1950年以前に発生した相当な数の白血病事例が研究に欠落していることであろう(32)。他方、がん以外の疾病の初期および後期の有意な不一致(P0.02)は、全体としてのがん以外の疾病に対する潜在的な選別バイアスを示唆している。呼吸器と消化器の疾病では境界域的な偏移パターンが観察されたが、呼吸器病では不一致は見受けられなかった。より詳細な分析が必要である。
結論として、ほとんどの部位における悪性腫瘍およびある種のがん以外の疾病による死亡のリスクは、19502000年期間を通して、LSS対象者のあいだで線量依存の形で増大した。放射線による固形がんの相対リスクは、被爆時年齢が若い人びとで最大になった。本研究の結果は、観測期間を6年延ばすものであるが、以前の報告と一致しており、被爆者の生涯にわたりがんのリスクが増大することを示した。疫学的評価は結果が生じてからのみ実施できるのであり、筆者らは亡くなった方々に真摯な敬意を捧げるものである。原爆放射線の晩発性健康効果の解明が、被爆者らの福利に役立つ基本的な情報を提供するなら、筆者らの喜びとするところである。全体としてLSS対象者である被爆者の42%、被爆時年齢が20歳以下であった人びとの80%が2003年の追跡期間満了時に生存しているので、疑いなくLSSは、リスク推計の正確さの向上と他の要因によるリスク修正に関する情報の補足に寄与し続けるだろう。


謝辞
広島、長崎の放射線影響研究所(RERF)は、日本国厚生労働省および、米国エネルギー省の一部は全米科学アカデミーに対するDOE Award DE-HS00000031を介した出資による民間非営利の財団である。本論文の出版はRERF Research Protocol RP 1–75によって支持されている。筆者らの見解は二国政府の見解を必ずしも反映しない。
受信:2011323日 認定:20111128日 オンライン公表:20111215

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1 件のコメント:

  1. 貴重な情報をありがとうございます。2012/5/26 M.Kohno

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