2015年6月7日日曜日

アルジャジーラ米国「低所得住民を放射能汚染地域に追いやるサンフランシスコの高級住宅街志向」











低所得住民を放射能汚染地域に追いやる
サンフランシスコの高級住宅街志向

放射能汚染された2か所の海軍施設跡地、トレジャー・アイランドとハンターズ・ポイントがサンフランシスコ市の低価格住宅供給計画の要

201564
トシオ・メロネク Toshio Meronek

H通りと第六街路の丘から西を眺めたサンフランシスコ市トレジャー・アイランドの景観。住民の3分の1以上が元ホームレス。Carlos Chavarría

【サンフランシスコ】ハンターズ・ポイント造船所とそのトレジャー・アイランドの付属施設は、かつて太平洋の核実験場から帰還する船舶の洗浄に使われていた。宅地需要と投機熱が高まり、街の高級化と再配置が爆発的に進行している都会で、その土地はまもなく、ぜひとも必要な低価格住宅の用地に生まれ変わろうとしている。新しい地域社会に求められているものは、魅力的に設計されて、絵になるショッピング地区や公園、エコにかなった耐乾性の灌木、呼び物になるサンフランシスコ湾の眺望である。

イラスト類は、もちろん、いまだに除染が進行中の区画のあちこちに掲示されている赤と黒のマーク、放射能を警告する標識を省いている。

かつての軍用地は、貧困層に住宅を供給する市当局の戦略の要になっている。トレジャー・アイランドは住民の3分の1が元ホームレスである。

レナー・コーポレーションは、2003年にトレジャー・アイランド、2014年にハンターズ・ポイントの再開発の入札を認可するように市役所に説得しており、土地買収の責任者、コフィ・ボナーは、「市役所と民間部門の非常に有能な方がたが低価格住宅団地の開発を促進する方策を探っておられます」といった。この会社は米国有数の大手住宅建設業者であり、サンフランシスコ市倫理委員会のデータによれば、地元の政治家に対するロビー活動に関連する支出額のトップ10社に入っている。

レナー社が市との交渉にあたって提示した特典のひとつが、平常の住宅市場相場より割高な金利だった。だが低価格住宅の唱導者たちは、残存放射能が懸念される2か所の海軍拠点跡地に貧困層を送りこむことに気乗り薄であり、開発業者に対する過去の訴訟を考えるとなおさらのことである。

レナー社は軍事基地の跡地を画一的な住宅分譲地に再開発することで財を成しているが、2008年にフロリダで売却した新築住宅のオーナーたちが第二次世界大戦期の爆弾やロケットを100発以上も見つけており、その多くがいつ爆発してもおかしくない状態だった。

海軍は陸軍によるフロリダの仕事よりは上出来の浄化作業をすると約束し、サンフランシスコ市は街から押し出されかねない人びとの手が届くように、住宅建設助成金を提供している。

ボナーは低価格住宅の対価の一部を支給する市の決定を賞賛し、「この特別な状況では、あらゆる方策を検討すべきです」といった。

ボナーはかつて前サンフランシスコ市長のウィリー・ブラウンに仕えており、この人はサンフランシスコ湾岸地帯の高くつく住宅コストにまつわる有名な皮肉(「サンフランシスコで年に50,000ドル稼げないようであれば、ここに住むべきではない」)を言い放って、リベラル寄りの有権者たちと一悶着おこしたが、ボナーがメディアに話すさい、住宅取得危機に要領よく言及しており、かつての上司よりも政治的に抜け目がない印象をあたえる。

ボナーはガーナ共和国クマシの裕福な家庭で生まれ、青年期の大半を英国ですごしている。彼は現在、湾から車で東に30分、全米で高所得トップ20に数えられる町、おしゃれなウォルナット・クリークに住んでいる。

コネの利くボナーは軍事基地再開発の指揮をとる前、現サンフランシスコ市長、エド・リーとも行動を共にしていた。だが、彼の名が最も知られるようになったのは、おそらく近隣のカリフォルニア州エメリーヴィル再開発事業の責任者としての働きによってであり、彼はそのさい、文化的・霊的に重要な埋葬地の保全を願っていた先住アメリカ人活動家たちを相手に戦い、勝っていた。オンロニ・シェルマウンドはその後、すっかり舗装され、H&M、イケア、ユニクロなど、チェーン店が並ぶ屋外ショッピング・モールになっている。

トレジャー・アイランドの北西部にある住宅団地の内部。サンフランシスコ市は、住宅金利を平常の市場相場より割高とする内容の交渉にもとづいて、レナー・アーバンの入札を認可した。Carlos Chavarría

ハンターズ・ポイントとトレジャー・アイランドの住民は、レナー社、ブラウン前市長、リー現市長など、同社に好意的な地方当局者たちのこととなれば、手加減しない。ネーション・オブ・イスラムの地域聖職者、クリストファー・ムハマドは同社相手の訴訟のさい、レナー社を「信用ならないゴロツキ会社」呼ばわりした。アスベスト関連の訴訟が、ハンターズ・ポイントにおけるレナー社の開発事業を、地域の子どもたちが高率で発症した喘息の原因にあげ、やがて市は特別対策委員会を設置することになった。

ムハマドはかつて2007年にサンフランシスコ・ベイ・ガーディアン紙に、「われわれの争点は、レナー社が意図的に(アスベスト)調査を打ち切ったことだ。問題になるのは、レナー社が自社の最終損益を考え、合意をすべて裏切った点にある。彼らは予防原則をどこ吹く風と捨ててしまった。そして、市は素知らぬ顔をしていた」と語った(Question of intent)。

古くからのハンターズ・ポイント住民であるマリー・ハリソンは、環境の公正さを追求するグループ、グリーンアクション(Greenaction)の活動家である。レナー社は「恥知らずとしか言えません」と、彼女はいった。

「この連中は、期待されて当然のこと、全力をつくして地域社会を守る仕事のこととなると、わたしの意見では、やっていることがほど遠くて、まるで地域住民が計算の埒外になっているかのようです」と、ハリソンはいう。

「連中は免責されたままの振る舞いを許されてきました」と、彼女は付け加えた。

ボナーに造船所の健康問題について質問してみると、受け答えが慎重になった。

「あなたにしろ、わたしにしろ、科学者でもなく、医者でもありませんが、ある種の病気について、ハンターズ・ポイントにおける発症率が高いことは、わたしも知っていますし、しっかりした記録もあります。いくつか理由があるとわたしは信じていますし、理由はこれだとおっしゃる方がたもおられます。手短に答えれば、そうですね、わたしは確かに知っています。わたしにいえるのは、基地を浄化し、最終的に健康な住宅と健全な活動を導入することが地域社会全体の最善の利益にかなうということだけです」と、彼はいう。

レナー社を導く利害はもちろん、健康住宅よりも収益であり、造船所とトレジャー・アイランの事業が完成した暁には、その見返りは850億ドルの巨額にのぼる再開発契約になる。会社は利潤期待値の公表を控えた。

しかし、レナー社がロビー活動で支出した(同社がみずから報告した推計値によれば)年間150,000ドル以上の経費の元はとれているようである。造船所の事業について、市が雇ったコンサルタントが競争入札による評価を諮問し、別の企業を推薦したが、レナー社は単独開発業者に選ばれた。交渉による合意の結果、レナー社は造船所のトレジャー・アイランドの土地の対価を支払わないが、基盤整備コストを市と分割して負担し、利潤を納税者と――たぶん――分け合うことになる。最終的な合意として、レナー社が投資額の25パーセントの利益をあげて初めて市は分前を受け取ることになった。

海軍に浄化費用負担の責任があり、この事業は何十年も前から実施されている。ハリソンは、それほど前の話ではなく、ハンターズ・ポイント第3街路のマンホールから汚染されえいる可能性がある下水が溢れだしたことがあると話した。最近、海軍が使っていた廃棄物除去法のため、造船所の近くで汚染されている可能性のある汚泥水を湾内に100ヤード(90メートル)先まで押し出した。

ハリソンは、「わたしは海洋学者ではありませんし、技術者でもありませんが、わたしでさえ、あの100ヤード標識のあたりに海水が流れており、そこに留まっていることができず、『ああ、わたしは汚染されているので、海水に混ざるわけにはいかない』というに違いないということはできます。わたしたちの海域には、すでに水銀とPCB類の問題があるのです」と話した。国の水質規制委員会は後者の問題に何年も前から気づいている。たとえば、潜在的な発癌物質である水銀とポリ塩化ビフェニル類が湾内の魚からごく普通に検出されているので、委員会は海産物の摂食に対する警告を発令している。

ハリソンの声は、最近の近隣住民の死を並びあげるさい、悲しげに聞こえる。

「これまで2年間にわたしの街区だけで、8人の方がたがさまざまなタイプの癌で亡くなりました。わたしのところから造船所のほうに1街区先に行くと4世帯住宅があり、そこの同じ世帯でない3人の成人女性が乳癌にかかっています。その後ろの住宅にも乳癌の方がいます。4世帯住宅から2軒先のケサダ(通り)に面した2世帯住宅の女性がおふたりとも乳癌です。ですが、なんらかの理由で、癌が集団化していると見られていません」

昨年、トレジャー・アイランドで大量の放射能汚染物質を見つけた契約労働者が、その後に解雇され、内部告発者として公職に報告した。下請けの放射線専門家、ロバート・マックリーンは当時、調査報告センターに「わたしたちは、校庭と以前に校庭だった区域で放射能汚染物質を検出しました」と語った。後に海軍の契約業者が、トレジャー・アイランドのいまだに放射能で汚染されている地域に関して虚偽報告を提出したことを認めた*

サンフランシスコ造船所、レナー・コーポレーションの子会社、レナー・アーバンの新規開発地の空撮画像。Lennar Urban

2014年に公表されたカリフォルニア癌予防センター報告は、トレジャー・アイランドにおける癌リスク上昇に関する結論を提示しないでおき、島の人口規模――2010年国勢調査で2500人――が一定せず、「いかなる類の意味のある特定地域統計解析も実行不可能である」と記していた。

ハリソンは、「わたしたちはキングズ・イングリッシュを話さないかもしれませんが、自分たちに起こっていることは知っています。毎日、それを見て、それとともに生きているのですから、それについて、お知りになりたいなら、ここに住んでいない他の人たちに聞いてもわかりませんから、わたしたちに聞いてください」といった。

ボブ・ベックは。市の地域開発を監督する部局、トレジャー・アイランド開発局の局長である。彼は島内に住んでいないし、7人の部下も住んでいない。だが、彼は技術者の目で見て、トレジャー・アイランドは「工学の観点から途方もなくすばらしい位置にあります――仕事をするうえで非常に興味深い事業です」という。

ベックは、「全体として、市内の低価格住宅の需要は全般的にとても大きいですが、ここの場合、なお強調される側面があり、元ホームレスの方がたという追加的な注目点があるのです」と語る。

ベックは、これから20年に計画されている8,000戸に達する住宅建設の着手に向けて腕をならしている。(目下、島内の既存住宅数は1,000戸未満)

「わたしたちは建設の着手に向けて、また(住宅危機の)解決のお役に立てることにワクワクしています」と、彼はいった。

トレジャー・アイランドの家屋の土地が化学汚染されているため、移住を余儀なくされる24世帯に宛てて発送された201311月付け書簡に、ベックは署名していた。移住問題があったのに、また海軍が放射能不安を抑えようとしていたのを暴露した調査報道*があったにもかかわらず、ベックは、浄化作業に関して全体として「海軍はいい仕事をしている」ことと信じていると話した。

しかし、ハリソンは、気候変動のために海水面が上昇すれば、なにが起こるかわからないと心配している。湾内の汚染土砂が、人びとの住み、働き、通学している場の近くに移動するかもしれないと彼女は主張した。

「市の(現在の)気候計画は穴だらけです。わたしたちは技師ではありませんし、科学者でもありませんが、わたしたちが計画にこれほど多くの穴を指摘することができるなら、問題があります」と、彼女はいった。

わたしたちが浄化について問い合わせたとき、毒性物質規制部門(DTSC)は環境保護局(EPA)と違っていた。EPAは当局の調査と検証は適切であるといった。

EPA9地域の広報官はEメールの問い合わせに、「海軍独自の内部・日常・品質管理システムは、設計通りに機能しております。海軍が懸念事項を見つけると、報告し、修正しております」と応えた。

浄化は完了からほど遠い。EPA報告は、現在の健康被害が呼吸、水の摂取、皮膚接触の結果であるかもしれないと述べていた。同局は、ハンターズ・ポイントが2021年までにEPAスーパーファンド(放置有害廃棄物除去基金)対象地登録から外されると予測している。海軍自体による見通しによれば、海軍は2022年にトレジャー・アイランド浄化事業を最終的に完了することになっている。それまで海軍は、汚染土壌、荒天時排水路、その他の構造物を掘り起こし、構内から搬出しつづける。

「海軍はまた、地下水を飲用水や浴用水として使うことを禁止することによって、また鉄か乳酸塩を注入して汚染物質の化学分解を促進することによって、公衆を保護しています」と、女性広報官は述べた。

DTSC
によれば、特に汚染されている土砂を、民間請負業者、USエコロジー&ネネルギー・ソルージョン社の数百マイル離れたアイダホ州とユタ州の所有地に搬出する費用のかさむ仕事もある。DTSC広報官、サンフォード・ナックスによれば、これは非常に危険な放射性土砂であり、カリフォルニア州に受け入れ処分場はない。

トレジャー・アイランドに移り住む元ホームレスにとって、頭上の屋根の交換条件に、喘息、またはそれより悪いものを受け入れる値打ちがあるのか否か、難しい問題である。

しかし、健康不安があるにしても、買い手が最初の売り出し住宅を単価400,000ドルから700,000ドルの相場価格で購入することを思いとどまらせなかった。住民たちは4月に入居しはじめた。

その一方、レナー社は最近、湾岸一帯に手を広げ、閉鎖されたばかりのアラメダ海軍航空基地とコンコード海軍兵器庫の基地再開発計画を固めた。

ハンターズ・ポイントと造船所の事業に関連する不幸と責任転嫁について、これらの基地の跡地に住む人びとが裕福であれば、事情は違っているのだろうかとハリソンは自問しないではいられない。彼女は、1989年の地震で被災した、裕福なマリーナ地区に立ち並ぶヴィクトリア朝様式の住宅を指し示した。その地域の多くで、地震の印はほんの1年以内に消えていた。


「あれが(ハンターズ・ポイントの)エヴァンス街路で起こっていたとすれば、それほど速く再建されていたと思いますか? わたしたちが市から公正な処遇を得ていると言いたいですが、ウソになってしまいます」と彼女はいった。

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