2015年2月13日金曜日

英紙ガーディアン【評論】核推進派が握った南オーストラリア州の王立委員会

南オーストラリア州の確信的な核推進派が諮問委員会を握った。無料の宣伝を許してはならない。

デイヴ・スィーニ― Dave Sweeney

核王立委員会は、南オーストラリア州の貧弱な未来、核ロビー、気候変動にまつわる懸念に対応している。委員会は独立していなければならない。
アデレードの北方500キロ、BHPビリトンのオリンピック・ダム鉱山、世界最大のウラニウム鉱床のうえに世界最大の鉱業会社が居座っている。Photograph: AAP

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南オーストラリア州における核産業に踏み込んだ今週の王立委員会の発表は国中に危険と驚きをもたらした。

南オーストラリア州の政治家の多くは、原子力の経済的魅力に夢中になった。何といっても、世界最大の鉱業会社は、アデレード北方500キロのBHPブリトン社オリンピック・ダム鉱山の世界最大のウラニウム鉱床のうえに居座っているのだ。だが、ウラニウム濃縮、国内の原子力、国際放射性廃棄物に門戸を開く会合に踏み込めば、放射能論議の深刻な拡大を招く。

この動きは、国内および世界の核産業の状況に関連した昨今の動向とまったく対照的である。

2011年に福島原発の炉心がメルトダウンした結果、原子力は社会の支持を失った。日本では50基余りの原子炉が休止して動かず、ドイツでは保守派の政治家らが2022年までに原子力発電を終わらせる責任を率先して担っている。米国で業界は息絶え絶えであり、フランスでさえ、原子力が同国の電力部門に占めるシェアーを今後10年のあいだに25パーセント引き下げる見通しである。中国、そしてそれより少し劣るがインドだけは、原子力推進派天国の明るい材料のままであるが、その両国においてさえ、再生可能エネルギー拡大計画に挑まれたり蝕まれたりしている。

身近な話題をいえば、ウラニウム市場はフクシマ発の経済的フォールアウトによって痛撃をこうむっている。フクシマのメルトダウンの当時、オーストラリア原産のウラニウム燃料が201110月に福島原発に装填されることが確定していたことを考えると、これも当然である。それ以来、価格と生産量の両面で歯止めなしの下落がつづいている。2014年、オーストラリア産ウラニウムの生産量と輸出額は過去16年間の最低を記録し、BHPは先月末、オリンピック・ダム鉱山の雇用数をさらに300人削減すると発表した。
昨今は核産業が難局にあるご時勢であり――王立委員会が原子力施策をさらに前進させる選択をするのに適時ではない。

南オーストラリア州経済は、かねてからのオリンピック・ダム鉱山の250億ドル拡張計画の棚上げ、自動車産業の雇用喪失、大規模な国防契約の海外移転といった産業撤退の三重苦による厳しく不透明な状況に見舞われている。この不安定さのさなか、確信的な描く推進派の息の長いロビー活動が拠り所を見つけている。

南オーストラリア原子力システムズ株式会社という企業が、南オーストラリア州政府と連邦政府に対して、国内の原子力推進を阻む重要な法的・政治的障壁を取り払うようにロビー活動をつづけてきた。このロビイスト集団は、ニュース・インターナショナルの前理事長、ブルース・ハンダートマークに率いられ、老練のアメリカ人核擁護・熱弁家、リチャード・チェリー、南オーストラリア州のベヴァリー・ウラニウム鉱山を経営する秘密主義のゼネラル・アトミクス元取締役にして首相および内閣府の前首席補佐官、イアン・コワリック、原発ムラ旅行者の群れの安息所、アデレード大学のトム・ウィグレイ、スティーヴン・リンカーン両教授が顔を揃えていた。

この動きに加えて、世界の放射性廃棄物を保管すれば、金になると繰り返し喧伝されている。世界原子力協会の幹部たちが、ボブ・ホーク元首相、ワーレン・マンディーン[元労働党党首、アボット内閣の先住民族諮問委員会委員長]、その他と一緒になって、危険標識を隠しながら、ドル札の話をわめきたてている。彼らのやり方は、南オーストラリア州民、とりわけ南オーストラリア先住民族の、国土における放射性廃棄物投棄に反対する粘り強く上首尾な運動を無視している。

現在の核推進の動きには、もうひとつの理由として――半ば茶番で、半ば真摯、人類の存続がかかった課題のひとつに対する反応そのものとして――気候変動がある。一部の人たちが気候危機の潜在的な解消策として核に飛びつく――絶望的な時代が絶望的な手段を求めると思う――理由は、理解できる。低炭素エネルギーの未来へと移行する必要性は明白だが、そのための方策は、それ自体が人類存続に対する脅威になり、再生可能エネルギー部門から不可欠な資源を奪う高コスト、高リスクのエネルギー・システム、核を採用するのが最善ではない。

南オーストラリア州は再生可能エネルギーの多くの分野で全国を先導している。この州は、高価値のソーラー、風力、地熱資源に恵まれている。再生可能エネルギー部門が世界最速で成長するエネルギー市場であり、すでに連日、世界の危険な原子炉の群れよりも多くの電力を生産しているとき、物議をかもし、汚染をもたらす核産業に乏しい資金と資源をつぎ込むのは、知恵が足りない話しである。

それらをすべてひっくるめて、わたしたちは発足まもない王立委員会と政治、それが生みだす結果の位置づけに向きあうことになる。発議権を、資源が注ぎこまれ過ぎで、実績が乏しすぎる核産業の推進基盤にすることを許さないのが肝要である。世界の核取引におけるオーストラリアの関与の国内的・国際的影響と意味を検証する必要がある。国連事務総長は20119月、継続中のフクシマ核危機を受けて、オーストラリア政府に対し、ウラニウム採掘の人間健康および環境に対する影響の真摯な分析を要請した――オーストラリア政府とウラニウム生産者をあげて、わざと無視した勧告である。

いかなる王立委員会も、証拠にもとづき、厳密で独立している必要がある。委員会は明確で包括的な権限を付与され、誇張が多い将来の約束を検証する前に、過去の遺産と現在の実績に向き合わなければならない。この条件を満たさなければ、業界に対する社会的認証が縮小しつづけ、原子と同じく社会を分裂させる憂き目を見るだろう。

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