2015年1月4日日曜日

レベッカ・ソルニット、巨大エネルギー企業の神権に対する挑戦を語る @TomDispatch

トムディスパッチ・コム 抗主流メディア常備薬

トムグラム:レベッカ・ソルニット、巨大エネルギー企業の神権に対する挑戦を語る
レベッカ・ソルニット Rebecca Solnit 20141223
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凡例:(原注)、[訳注]
【サイト主宰者、トム・エンゲルハートによるまえがき】
トムディスパッチが伝統的なサイトだなんて、だれも思わないだろう。それでも、わたしたちにだって、伝統はある。数あるなかで一番の「伝統」といえば、一年の締めくくりとして、レベッカ・ソルニットに登場願うことだ。年が終わるとき、彼女は未来を夢見ることもあるし、時に過去のことを考え、また時にはほんの数秒前のことに注目するが、このウェブサイトに初登場した瞬間から常に、他の人たちが考えるのも嫌なほど辛くて険しいと思う現実を前にして、なんらかの形の希望を示してくれる。
2014年のヒット作“Men Explain Things to Me”[『男たちがわたしに説明してくれる』]とさらに新しい本“The Encyclopedia of Trouble and Spaciousness”[『厄介事と雄大さの百科事典』]の著者、ソルニットは年の終わりにあたり、終末論的な世界に向かう人類の最近の画期的なできごとを考察した。彼女は気候変動を冷徹な目で見つめ、しかも希望と目的意識を失うことがない。それはいつもの通り、印象的な能力であり、わたしたちを真に危険にさらしているものを注意して見つめているならば、未来はわたしたちの手中にあることを思いださせてくれる。いつかある日、利益を念頭に置いて意図的に温室効果ガスの最終便を待機中に送りこんだ連中は――わたしはもちろん、エネルギー大手のCEO[最高経営責任者]たち(および、わたしたちの名指しする、サウジアラビア、ロシア、「サウジアメリカ」のエネルギー事業を運営する、さまざまな連中)のことを言っているが――歴史上最悪の犯罪者、わたしたちの時代の真のテロリスト(あるいは、わたしのいう「地球抹殺者」)として記憶されることだろう。わたしたちアメリカ人が、コントロール下に置かなければ、わたしたちには未知の種類の危険がわたしたちに振りかかるのが必定である現象、気候変動に真剣に取り組まないで、911後の歳月、何兆ドルもの税金をいわゆる「国家安全保障」に文字通りに鋤きこんできたのは、わたしたちの時代のジョークのひとつである。皮肉というか、愚行というか、なんというか。
さて、秘められた監視の世界について、とても多くのことがわたしたちに暴露された年、2014年を閉じるにあたり、新年に向けたわたし自身の願いをいわせていただきたい。2014年の終わりにかなり慎ましいことが許されるなら、元陸軍兵のチェルシー・マニング、元CIA諜報員のジョン・キリアコウの釈放、NSA[国家安全保障局]内部告発者のエドワード・スノーデンの追放解除をお願いしたい。彼らの正真正銘の奉仕により、わたしたちが住むアメリカ世界の性格について誰も知らなかったことをわたしたちに知らせてくれたことにより、彼らはこの国から耐え難い現状よりずっと厚遇を得てしかるべきである。いつかある日、彼らを投獄したり追放したりした者共が忘れ去られたり叱責されたりするとき、彼らはわたしたちの時代のヒーローとして記憶されているとわたしは確信している。それまで、一介の男が希望を述べてもかまわないだろう。2014年を終えるにあたり、わたしは彼らに脱帽する。トム
すべてがバラバラになるとき、すべてが統合する
2015年の気候
Everything’s Coming Together While Everything Falls Apart 
The Climate for 2015 
レベッカ・ソルニット Rebecca Solnit
それは、わたしがこれまでに見たなかで一番ワクワクする官庁文書だったが、それにはただひとつの理由があった。日付がフランス革命暦6年テルミドール[熱月]21日になっていたのである。ぼってりした紙にセピア色のインクで記されたその文書は、わたしたちの暦なら1798年の晩夏にあたる日にフランスで行われたありきたりの土地競売を記録していた。だが、その通常でない日付は、フランス革命がまだ日常を包み込む現実であった時期にその文書が作成されたことを示しており、権力の配分と政府の性格といった基本的なことが驚くべき形で生まれ変わっていた。1792年を第1年と呼び替える新暦は、社会をそっくり始め直すために制定された。
わたしはサンフランシスコの閑静な通りに面した、あの小さな古物店に、前千年紀屈指の大動乱の遺物を掲示した。そのことから、わたしは偉大なフェミニスト・ファンタジー作家のアーシュラ・K・ル=グィンがほんの数週間前に作成した並外れたことばを思い起こした。彼女は著作の受賞スピーチで、「わたしたちは資本主義のなかに生きています。その力から逃れられません。国王たちの神権もそうでした。いかなる人間の権力も、人間によって抵抗され、変革されえるものです」と語った。
わたしが掲示した、あの文書は、フランスが国王の神権は逃れられない現実であるという思念を克服してから、ほんの数年後に書かれた。革命派は国王の罪状を並べて処刑し、違った形態の統治を試行していた。その実験は失敗したというのが一般的だが、それでは解釈として狭すぎる。フランスは断じて絶対君主制に復帰しなかったし、フランスの実験は世界中の自由主義運動を鼓舞したのである(その一方、どこでも君主と貴族を恐怖させた)。
アメリカ人は、自己満足と、ものごとは変わりようもなく、われわれ、民衆はものごとを変革する力を持たないという絶望とを組み合わせることに巧みである。それにしても、わたしたちの国とわたしたちの世界が常に変化してきたのであり、いま大いなる恐るべき変化のまっただなかにあって、時として大衆の意志と理想主義的な運動の力によって変革すると見ないようでは、歴史について、また現代のできごとについて、底抜けに無知である。時あたかも、惑星の変動する気候がわたしたちのエネルギーの化石燃料時代からの(そして、たぶん資本主義時代の特定部分からも)脱却を要求している。
巨人を倒す方法
ル=グィンのことばを用いるには、物理学が避けられない。大気中にもっと二酸化炭素を加えれば、惑星が暖かくなり、惑星が暖かくなると、さまざまな種類の混乱と崩壊の羽目が外れる。その反面、政治は避けられなくはない。たとえば、何年も前の話ではないが、現在アメリカで第3位の大企業、シェヴロンが自社の支配地域とするカリフォルニア州リッチモンドの町で精油所を運営することは避けられないと思われていた。シェヴロンの神権は神授されたようなものだと思えた。例外として、リッチモンドの人びとはそれを拒み、107000人の主として貧しい非白人から成る、この町は押し返したのである。
シェヴロンは、エクアドルの内陸とブラジルの沖合で膨大な量の石油を漏出し、半世紀来、ナイジェリアの石油採掘とタールサンド瀝青のカナダからリッチモンド精油所までの鉄道輸送による汚染をもたらしたが、その莫大な額の支出にもかかわらず、近年になって、進歩派グループが市議会と市長職の選挙で勝利した。リッチモンドは主として犯罪率の高さとシェヴロン精油所の毒性排出物で有名であり、周期的に緊急事態が発令され、時には全員が屋内退避を要請され(そして、屋内にいれば毒がおよばないふりをし)、空高く舞い上がり、遠くオークランドからも見えた1218日の炎のように、時には――シェヴロンによって――無害だと言われるような町で、ガイル·マクローリン市長と彼女の仲間たちは、ちょっとした革命を組織した。
マクローリンは彼女の市長時代を次のように描く――
「わたしたちは、呼吸するためのより良い空気、汚染の削減、よりきれいな環境ときれいな仕事の構築、犯罪率の低下など、とても多くのことを達成しました。殺人件数は33年間で最少になり、一人あたりのソーラー発電装置設置容量でベイ・エイアの先進的な町になりました。わたしたちの町は自然保護都市です。わたしたちは住宅所有者を保護し、差し押さえと立ち退きを防ぎました。また、シェヴロンに11400万ドル[137億円]の徴税を追加しました。
世界第2位の石油大手は、201411月の選挙でマクローリンや他の進歩派候補を打倒し、お気に入りの市長と議員を据えるため、公式に310万ドル[37000万円]を支出した。この額は、リッチモンドに有権者一人あたり約180ドル[22000円]になるが、リッチモンドの政治に長らくかかわってきたわたしの兄、デイヴィッドにいわせれば、会社が地域政治を動かすために使った裏金に注目すれば、ざっと10倍になるそうである。
それでも、シェヴロンは敗北した。会社側候補はひとりも当選せず、広告看板、メール広告、テレビ広告、ウェブサイト、その他、金にあかしてありとあらゆる中傷キャンペーンを打った草の根進歩派は全員が当選した。
このような小さな連合が2013年度の売上が2289億ドル[276000億円]である企業を相手にして地域で勝てるとすれば、大きな世界規模の連合が化石燃料の巨大企業に対して何ができるか想像してみよう。リッチモンドで容易でなかったし、最大規模の場合でも容易でないだろうが、不可能ではない。リッチモンドの進歩派は、現状が避けられないものではなく、永久的な暮らしのあり方ではないと想像することによって勝った。彼らはその必然性を弛める仕事をするために姿を現したのである。億万長者と化石燃料企業はどこでもいつでも身を入れて政治に勤しんでおり、わたしたちに傍観者のままでいることを期待している。さまざまな運動に対する彼らの反応を観察すれば、わたしたちが覚醒し、姿を現し、彼らの力に対抗するためにわたしたちの力を行使する瞬間を彼らが恐れていることがわかる。 
先週、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事に州内全域のフラッキング[シェールガス水圧破砕採掘法]を禁止する法律に署名させる目的で、地域活動家たちと公衆衛生専門家たちがじゅうぶんな圧力をかけたとき、その力がもっと大規模に発動された。1217日にニュース速報が流されるまで、結果は不透明に思えた。これは画期的なできごとであり、分岐点となる決定だった。ひとつの州が相当な埋蔵量の化石燃料を予見しうる未来まで採掘しないと決定し、別のものごと――州民の健康、州内の清浄な水――のほうが大事であると示したのだ。ここでももう一度、市民の力が産業の力よりも強大であると示されたのである。
ニューヨーク州内のでっかい勝利の数日前、世界の国ぐにがペルーのリマで地球気候条約に関する最近の会合を終え――事実上の暫定合意、発展途上諸国だけでなく、初めてすべての国ぐにに排出削減を求める合意に達した。合意は、201512月にパリーで開催される地球気候サミットまでに、もっとよいもの――もっと実効的なもの、すべての国ぐににもっと要求するもの――にならなければならない。
現地点からそれまでどこまでできるか、予見するのは難しいが、活動家たちと市民が自分たちの国に強く要求しなければならないことは容易にわかる。フランスが絶対君主制を終わらせたように、わたしたちは化石燃料時代を終わらせる必要がある。ニューヨーク州とリッチモンドの町が実証してみせたように、なにが可能なのかは急速に変わりつつある。
3種類のヒーロー
再生可能エネルギー技術における革新を観察すれば――また、これは技術者らがわたしたちの報われない功労者である時代ということになるが――未来は途方もなくワクワクするものになると思える。つい最近まで、気候運動は技術が気候変動の略奪からわたしたちを救ってくれるという希望に反対することをめざしているだけだった。いま、921日、ニューヨーク市でおこなわれた40万人強の行進で掲げられた6枚の大横断幕のひとつが宣言したように、「解決策はある」。風力、太陽エネルギー、その他の技術は、設計がよくなり、コストが下がって、間違いなくこれから実現するものの一端にすぎないにしても、多くの非凡な改良が施されて、急速に普及しつつある。
米国と世界の各地では、クリーンなエネルギーがじっさいに化石燃料よりも安くなっている。石油価格が突如として急落し、当面の状況にスクランブルをかけているが、その肯定的な副次的利点として、汚い炭素集約型の最先端エネルギー抽出計画案を現時点の費用対効果分岐点以下に追いやるだろう。
クリーン・エネルギー技術そのもののコストが相当大きく下落しているので、イングランド銀行総裁のような分別のある財政顧問は、化石燃料と集中型の在来発電所は不良投資先になるかもしれないと示唆しはじめている。彼らはまた「炭素バブル」(脱化石燃料運動が業界の倫理問題に加えて現実的な問題にも注目を集める効果を示した兆候)についても語っている。だから、テクノロジー戦線は心強い。
これは行動のアメである。ムチもある。
科学者たちによる気候報告に注目すれば――科学者たちもまたわたしたちの時代の功労者集団だが――ニュースは恐ろしいものになる一方である。あなたもおそらく肝要な事項をご存知だろうが、混沌状態の天候、陸上と海上で高温に貼り付いているのが常態になった記録(2014年は全時代を通した最高温度に向かっていた)、355か月連続した平均値超えの気温、氷の溶融の加速、海の酸性化、「第六の絶滅」、熱帯病の蔓延、結果として飢餓を伴う少量生産の下落といった具合である。
とても多くの人たちは、地球とそのシステムについて大して考えず、あるいは最後の氷河期が終わり、豊かで平穏な惑星が出現して以来、平常な状態を保ってきた精妙で入り組んだ互恵性と平衡を理解しないので、わたしたちがなにに直面しているのか、わかっていない。わたしたちのほとんどにとって、そのどれもリアルでなく、生々しくも、理屈抜きでもなく、目に見えさえしていない。
専門分野がなんらかの形で気候と関連している科学者たちの大多数にとって、実にそのとおりなのだ。彼らは多くの場合、おびえ、また悲しみ、狼狽しており、気候変動がわたしたちの種とわたしたちが依存しているシステムにもたらす影響の悲惨さの程度を抑えるために行動に出ることの緊急性について明快にわかっている。
科学者でない人たちのなかには――未熟な絶望がいつもそうだが――なにもしないことの言い訳として――なにをやっても手遅れだとすでに決めつけている人たちがいる。しかしながら、内部情報通は一般的に、最良シナリオと最悪シナリオでは大違いであり、未来はまだ記録されていないので、わたしたちがいま行うことが東邦もなく重要であると確信している。
わたしがあの巨大規模の気候行進のあと、350.orgの共同創立者で広報部長、ジェイミー・ヘンに、この瞬間をどうお考えですかと質問してみると、彼は「すべてがバラバラになるとき、すべてが統合します」と、ああいう凄まじい科学論文の影に代替エネルギーと気候直接行動に関する元気なニュースが存在する状況を完璧に寸評してくれた。わたしたちはこのことから、第3の功労者集団に思い至るのであり、彼らは気候という単一範疇に没頭し、そのためには特別な資格、直接行動主義者であることを必要としない。
新テクノロジーが導入され、古い炭素排出技術がしだいに廃れ、あるいは凍結されるなら、それが唯一の解決策になる。わたしたちが石油時代から抜け出るとすれば、化石燃料の蓄えはまさしく今ある場所――地中――でその大部分が保全されなければならないのは自明の理である。そのことは、科学者たちがおこなったかなり最近の計算と、活動家たちが広報し、後押しした(それに、たぶん代替システムを設計する技術者たちが目に見える形にしてくれた)おかげで、明々白々な事実になった。これらすべての目標――惑星の温暖化を摂氏2度(華氏3.5度)に抑えることは、何年も前に確定した目標値だったが、摂氏1度だけの気温上昇でもすでに影響が出ているので、いま不安を感じている科学者たちは疑問を唱えている。
化石燃料経済を解体すれば、世界政治と国内政治をゆがませる石油の力の何ほどかを打破する副作用が疑問の余地なくあるだろう。その力に挑戦しても、猛烈な戦い――脱化石燃料運動から、フラッキング反対闘争、アルバータのタールサンド製品を輸送するキーストーンXLパイプラインやその同類を止める取り組み、米国内で成功した石炭火力発電所の閉鎖運動、そして他の石炭火力発電所の新設を阻止する運動にいたるまで数多くの戦線で気候運動が担ってきた戦いそのもの――がなければ、もちろん、実を結ぶことはないだろう。
気候直接行動~世界と地域の運動
気候変動について情熱的であり、わたしたちが地球と人類の運命を決する瞬間に生きていると理解する人たちのだれもが、運動のなかに自分の場を見つけるなら、驚くべきことが起こっただろう。いま起こっていることは、すでに特筆ものであるが、危機に対してまだ十分ではない。
公共団体の化石燃料企業株保有をやめさせるために2年前に立ち上げられた脱化石燃料運動は、控え目な形ではじまった。それがいま、世界中、何百もの大学構内や他の公共団体で活動している。官僚機構の非協力、あるいは先例主義は、並外れた力であるが、顕著な勝利がえられた。たとえば9月下旬のこと、ロックフェラー兄弟財団――石油産業の勃興期にジョン・D・ロックフェラーが基礎を築いた富を元に財を成した一族――が資産の86000万ドル[1036億円]を化石燃料株から引き揚げると約束した。これは、教会信徒会、大学、都市、スコットランドやニュージーランド、シアトルの財団など、すでに資金引き上げを表明した800以上の公共団体のひとつにすぎない。
活動家たちが介入していなかったら、キーストーン・パイプラインは何年も前に完成し、操業していただろう。それは優れて社会的で激烈な論議を招く問題になり、近年にいたって、大統領が姿を現す数十回の機会にデモが仕掛けられるテーマになった――そして、この騒動のあいだに、(わたしを含め)非常に大勢の人びとが、化膿したスラッジや瀝青の巨大な腫れ物、そしてアルバータのタールサンドでできた毒の湖の存在に気づくようになった。
カナダの活動家たちは、他のパイプラインを阻止して、この内陸にある代物を輸出するために沿岸部に搬送するのを妨げるのに有効な活躍をした。この結末のひとつとして、とても大量のタールサンドがいま貨車に積載されている(衝突事故になれば、悲惨な結果になり、衝突しなくても、長期的には悲惨な結末になる)。この並外れて汚い原油は、精製工程だけでなく、採掘現場でも極めて高レベルの毒性物質を後に残す。
ウォールストリート・ジャーナルも先日、次のように報道した――
「キーストーンXLパイプラインは、トランスカナダ社が6年前、1700マイル[2700キロ]のパイプラインの建造を発表したとき、エネルギー自給と雇用創出のモデルケースになると宣伝されていた。だがその後、この原油パイプラインが招いた政治および規制の混乱が、北米全域で他の少なくとも10ルートのパイプライン計画に対する抵抗を活気づけた。その結果、計画では150億ドル[18000億円]またはそれ以上の費用をかけ、3,400マイル[5,500キロ]以上に延びる6ルートの石油と天然ガスのパイプラインが遅れていることが、ウォールストリート・ジャーナルの記録でわかった。他にも少なくとも4ルート、投資合計額が250億ドル[3兆円]、総延長5,100マイル[8,200キロ]の事業が反対にあっているものの、まだ遅れは出ていない」
たいがいの人は個々の運動を見ていないので、気候運動は見かけ以上に大きく、効果的であることを実証した。目を凝らして、ふつう見えてくるものは、一方で世界規模の問題に取り組むグループと他方で地域グループの一群の奔放なまでに多様性のある混合体である。米国内では、それはテキサス州デントンの11月選挙におけるフラッキング禁止であり、あるいは全米いたるところの石炭火力発電所の閉鎖であり、あるいは201527日の巨大なフラッキング反対デモに向けて勢いづいているカリフォルニアの運動なのだ。
それは大学の脱化石燃料キャンペーンに取り組むことだったり、あるいはエネルギー効率の改善とクリーン・エネルギーの普及によって気候変動に対処するように州法を改正したりすることでもよい。ブリティッシュ・コロンビア州の活動家たちが当面、野営、市民的不服従、ヴァンクーヴァー近くのバーナビー山で大勢の逮捕者を出した行動によって、太平洋沿岸に向かうパイプライン用のトンネル掘削を阻止したことでもよい。逮捕者のひとりがヴァンクーヴァー・オブザーヴァー紙に次のように書いている――
「あの独房に座っていると、わたしの肩の重荷が抜けたように感じました。その重荷を今まで何年も担いでいたのですが、完全に気づいていたわけではありません。カナダが京都議定書から抜け、わが国が気候変動に対して卑劣な立場にあることに、わたしは恥ずかしい思いをしています。これらがわたしたちの社会の価値であるとすれば、わたしはそのような社会の無法者でありたいと望んでいます」
未来を築く
あの9月のニューヨーク気候行進を目前に控えていたとき、わたしは今から100年後の人間たちが、気候変動が認識された時代に生きていたわたしたちを見て、もっと多くのことができたはずだとみなすだろうとつくづく考えはじめた。その人たちはわたしたちにひどい軽蔑を感じるかもしれない。彼らはわたしたちのことを、家督を賭け事で潰した呑んだくれのように相続財産を浪費した連中とみなすかもしれず、この場合、家督とは万人の森羅万象なのだ。わたしはもちろん、順調に機能している自然界そのもののことを言っている。彼らはわたしたちのことを、すべてが燃えているときに酔っ払っていた人たちと見るだろう。
彼らはわたしたちのことを、セレブのことや束の間の政治スキャンダル、あるいはナイス・ボディであるかどうかを気にかけて、正気を失っていたと考えるだろう。彼らは、新聞の第1面の折り目のうえに連日、巨大な黒枠が印刷されており、「別の記事もいくつか掲載されているが、気候がやはり最大のニュース」と告げていたと考えるだろう。
彼らは、わたしたちがどこでも破壊エンジンの前にわが身を投じ、天に声を上げ、荒廃が止められるまで一切を犠牲にしていたと考えるだろう。彼らは少数派を祝福、賞賛し、多数派を呪うことだろう。
惑星上のほぼすべての国に英雄的な気候活動家がいたし、いくつかの特筆すべきことがすでに達成されている。運動は規模、力、洗練性において育ってきたが、まだ必要なことが成就したとはとても言えない。12月にパリーで国連が主催する地球気候条約策定会議の下準備期間として、2015年は決定的なものになるだろう。
いまこそ――気候運動の世話人たちがこれまで以上に手を差し伸べ、家に引きこもった人なら手紙を書いたり、20歳の若い人であれば、進んで遠くの直性行動に赴いたりするなど、この変身において、すべての人に役割を与えてくれる時期なので――あなたがまだであれば、発展途上の運動に自分の立場を見つける好機なのだ。これは最大の光景であり、だからだれにでも役割があり、他にもとても多くの重要な問題がわたしたちにのしかかってくるにしても、たった今、これこそが万人の最も重要な働きであるべきなのだ。(フィリピンのカリスマ的な元交渉代表、イェブ・サノも指摘するように、「気候変動はほとんどすべての人権と衝突しています。人権がこの問題の核心なのです」)
多くの人たちは、私生活における個人のおこないがこの危機で問題になると信じている。それはよいのだが、肝要なことではない。車より自転車を使い、動物より植物を食べ、屋根の上にソーラー・パネルを設置するのは、見上げたことだが、そのようなジェスチャーはまた、あなたが問題と無関係であるという間違った感覚を植え付けかねないことになる。
あなたは単なる消費者にとどまらない。あなたは地球の市民であり、あなたの責任は、プライヴェートでなく、公的なもの、個人的でなく、社会的なものである。英語圏に住むほぼ全員がそうであるように、あなたが炭素の主要排出国の住民であるなら、あなたはシステムの一員であり、システムの変革を措いて、わたしたちを救うものはなにもない。
戦いはたけなわである。科学者たちは生態学の観点から、わたしたちが敏速に化石燃料から決然と離脱することによって、未来に生きる人たちに押し付けようとしている打撃を制限できるようにする時間が少しはあると助言している。政治的な観点から言えば、果てしない足踏みとはぐらかしと阻止と行き詰まりとため息のあと、数十年もかかってようやく、パリー気候サミットで諸国間の意味のある気候合意を達成するまで、わたしたちには1年ある。
リマ準備会合に行ってきた友人が今月はじめ、わたしたち全員が政府を猛烈にせっついていれば、チャンスがあるとわたしに言った。変革をもたらす真の圧力は、国家間で互いにかける圧力よりも、世界的に諸国の国内からもたらされる。(部分的には米国製品の相当な割合の製造国になることによって、中国が米国を追い抜くまで)長らく世界最大の炭素排出国であってきた、ここ米国で、わたしたちには圧力をかける格別な責任がある。圧力は効く。大統領は明らかにそれを感じていて、最近の米中間排出量抑制合意に――完璧または適正なものからは程遠いにしても、巨大な前進の一歩として――それが反映されている。
わたしたちがいる必要のある場所に、どのように辿り着くのか? だれにもわからないが、炭素排出量削減、エネルギー経済転換、化石燃料専制からの離脱、すべてがつながっている世界の展望の方向に進みつづけなければならないことはわかっている。この1年の物語は、わたしたちが書く物語であり、気候革命の、200年前にフランスの人びとが彼らの世界を(そして、わたしたちの世界を)変革したのに匹敵する基本原則の変革を大衆の抵抗がもたらす物語でありうるのだ。
今後200年たって、どこかのだれかが2021年の文書を手にして、それが、古い必然性がついに一掃され、わたしたちが可能性を獲得し、わたしたちのものにした気候革命暦6年に書かれたものなので、驚異に打たれているかもしれない。「いかなる人間の権力も、人間によって抵抗され、変革されえるものです」と、アーシュラ・K・ル=グィンはいう。それがわたしたちのなしてきたなかで最も困難なことであっても、彼女は正しい。いま、すべてはそれにかかっている。
【筆者】
レベッカ・ソルニットRebecca Solnitは、アーシュラ・K・ル=グィンの本を読んで育ち、長年、トムディスパッチ歳末記事の掉尾を飾ってきた。最近著作に2014年の独立系ベストセラー、 Men Explain Things to Me[『男たちがわたしに説明してくれる』](Dispatch Books)20145月刊のTheEncyclopedia of Trouble and Spaciousness [『厄介事と雄大さの百科事典』](Trinity University Press)はどこでも年間ベスト本リストに入っている。
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Copyright 2014 Rebecca Solnit
暗闇のなかの希望―非暴力からはじまる新しい時代
災害ユートピア (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ) 
Men Explain Things to Me 
The Encyclopedia of Trouble and Spaciousness
 
Shadow Government: Surveillance, Secret Wars, and a Global Security State in a Single-Superpower World

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