2014年10月8日水曜日

ロイターUS【海外報道】原発作業員に不明朗なフクシマ危険手当





原発作業員に不明朗なフクシマ危険手当
Nuclear workers kept in dark on Fukushima hazard pay
サイトウ・マリ MARI SAITO
アントニ・スロドカウスキANTONI SLODKOWSKI
広野町 2014107

【ロイター】損壊した福島第1原発における危険手当を2倍に増額すると約束されてから1年近くたったが、チェルノブイリ事故以来で最悪の核災害現場の浄化作業を担う作業員らにとって、特別手当があるとしても、額がいくらになるのか、いまだに闇のままである。
東京電力の広瀬直己社長は昨年11月、放射能汚染水の漏出が相次ぎ、福島原発の労働条件を改善すべきだという圧力にさらされ、原発作業員の危険手当を倍にして請負業者に配分すると約束した。その結果、原発作業員が受け取る危険手当は2万円に増額されるはずだった。
ロイターは7月から9月にかけて数十人の作業員に取材したが、東電の約束した危険手当の全額を受け取ったと答えたのは1人だけだった。まったくもらえなかったと答えた作業員も何人かいた。給料明細に危険手当が明示されている場合、その金額は約4000円から1万円――よくても広瀬社長が約束した額の半分だった。
いくつかの事例では、作業員らは吸収した放射線量に応じて危険ボーナスが支払われると言われたといった――危険な作業現場で過剰リスクを引き受けさせるための奨励金である。
ロイターの取材に応じた作業員は、1号炉および2号炉の近くのいわゆる「高線量区域」で作業すれば、1日あたり9,000円余分に稼げると言われたといった。別の作業員は、日本の被曝線量限度5年間分の線量を被曝すれば危険手当として49万円余分に稼げる計算で1時間あたりの割増金を支払うと言われた。3人目の作業員は、その同じ被曝線量で390万円になると言われた。
福島の原発作業員が支払いを受ける額を値踏みするにも、東電がその支払額は請負業者のプライベート事項であると主張しているので、ややこしくなる。福島原発を運営する電気事業者はすでに国営化されているが、大成工業など建設大手を含む請負ピラミッドの頂点に立っている。東電は、請負業者と取り交わした契約すべてについて、詳細情報の開示を拒んできた。
東電の現場最高幹部は7月の報道人向け現場視察ツアーのさい、危険手当の増額分がどのように配分されているのか承知していないと認めた。「手当増額のことであれば、作業員に直接いくら支払われているか、わたしは正確には承知していないですね」と、福島原発の小野明所長はいった。
東電はロイター宛て文書で同社が請負企業に対して、すべての契約に作業員の賃金額を明記すること、各社の下請企業全社にその旨を伝える文書を交付することを指示していると述べた。最近になって、作業員にどれほどの危険手当が届いているか、判断するために小規模請負業者に対する抜き打ち検査をはじめたと東電はいう。東電の検査リストに掲載された作業員のひとりはロイターに9月、設問の1項は直に危険手当に関連するものだったと答えた。
2011322日、津波が原発を水没させ、原子炉3基のメルトダウンを起こしたあと、浄化作業員を確保するのに、東電は大部分が少企業である800社ばかりの請負業者に頼っている。請負業者は、原発で雇用されている現在の作業員数6,000名のほとんどすべてを調達している。現場にいる東電直接雇用の従業員は約250名にすぎない。
過去1年間で福島現場の労働力はほとんど倍になり、その大部分は、地下水の汚染を防止したり、原子炉建屋に流入し溶融燃料に接触した汚染水を貯蔵したりする仕事にあたっている。
最近になって現場に来た作業員らの一部は、汚染水処理作業の副産物である高レベル放射性廃スラッジを保管するための貯留槽を造っている。地下水が溶融炉心に達するのを防ぐために、福島原発の周囲の地下を凍結させるための設備を設置している作業員らもいて、このプロジェクトは鹿島建設が指揮する前例のない工事であり、経費は320億円に達すると見積もられている。
福島原発の内部状況を調査した縄田和光・東京大学工学部教授は、作業員らがリスクに見合う手当を受け取れないなら、結局、別の働き口を探すようになるという。東京では2020年オリンピック大会を前にして建設工事が加速しており、経験を積んだ作業員らが安全な食を求めて去るなら、原発で事故が起こる見込みが高くなると、縄田教授は取材で語った。
「いままでは作業員らの善意に頼りきっていました。でも、事故からすでに3年ですよ。このままでは、やっていけません」と、縄田教授はいった。 
ホゴにされた約束
サクラダ・コウジは他の作業員らと同じく危険手当増額の約束について、東電の広瀬社長が昨年11月に発表してからほどなくして知った。原発内の混み合って休憩室で増額の約束のニュースは口コミと携帯メールで拡散した。
「雇い主(請負)のどこかが賃上げについて話すためにミーティングを招集すると心待ちにしていましたが、なにもありません。連中は東電発表を完全に無視したのです」とサクラダはいった。
サクラダ(52歳)は、その時までの1年半、退出時のバスと作業車の放射線量検査を担当していた。除染場に使われる仮設テントのなかで防護服とマスクを着用し、車両をガイガカウンターで走査して9時間シフトで働いていた。時給は約千円だった。
サクラダは先月、東電は直接雇用でなくても原発作業員の就労条件の責任を追うべきだとして提訴した4名の福島原発作業員らのひとりだった。この訴訟は、東電が請負業者の雇用慣行に対する監督不備を訴えられる初めてのケースになった。
原発から約60キロ南、福島地方裁判所いわき支部に提訴された、この事件は6200万円の未払い賃金の支払いを求めるものである。訴訟はまた、福島原発作業員らを東電の賃金支給リストに掲載すること、または賃金支払いの責任をもつことを求めている。 [ID:nL3N0R407F]
東電はまだサクラダたちの訴状を受け取っていないといった。「本当に訴訟が提起されているなら、請求の内容や主張を確認し、真摯に対応する」と東電はいう。
37人の作業員および元作業員に取材すると、そのほとんどが匿名を条件に応じたが、彼らの報酬、とりわけ危険手当が大きくばらついていることがわかった。6人の作業員は大成工業傘下で別々の下請け業者に雇われ、7月のコンクリート製貯留槽建設工事で一緒に仕事したが、1日あたりの危険手当はゼロから9,800円までのばらつきがあった。
大成工業は作業員の詳細な身元が不明では、主張にコメントできないといった。同社は採用している請負全社に対して監督と監視をしているという。
ロイターが取材した作業員のうち、ひとりだけ、東京の建設大手、ライト工業に直属するクレーン操作員が、約束どおり1日あたり2万円の危険手当を受け取っているといった。
オリンピックにまつわる懸念
東電が昨年11月に約束した危険手当の増額は、安倍晋三首相による昨年の東京オリピック開催売り込み先立つ時期にイメージ向上を求めていた日本政府による介入のあとに発表された。安部首相はこの目的のためにあらかじめ未公表の広報チームを発足させ、そのチーム員2名によれば、それには経産省と外務省の職員らが参加していた。
新たな放射能汚染水の漏出が次々に発覚し、福島の状況が危機に逆戻りしていたので、日本人はオリンピック招致活動が成功するチャンスが損なわれるのではと心配していた。安倍内閣の当時の経産大臣は、東電による漏出制御作業を「モグラ叩き」と表現していた。
安部首相は昨年9月初旬のブエノスアイレスで国際オリンピック委員会に向かって、福島の漏出は「アンダー・コントロール」されていると語りかけ、この説明は本国の野党議員や環境活動家ら、広範な層からの批判を招くことになった。
東京がオリンピック開催を勝ち取ったあとの昨年10月下旬、安倍内閣の広報チームは福島原発における労働条件にまつわる悪評と戦っていたとチーム員2名はいう。現場の悪弊の概略はロイターの報道にまとめられ、違法な労働慣行だけでなく、浄化作業員の供給に組織犯罪がからんでいることが暴露された。[ID:nL4N0HS0UJ]
政府は幾分かはロイター報道に対応したのか、東電に対して対応策を講じるように督促した。広報チーム員のひとりによれば、その督促が広瀬社長による11月の危険手当倍増発表を引き出した。
約束発表後の数週間、東電は静かに尻込みしていた。東電は最初に毎日新聞が報道した11月下旬の請負業者宛て書簡において、危険手当を倍増する約束は「作業員らの賃金を改善する目的のものである」と表明していたが、それは個々の作業員がそれに見合う賃金増額を目の当たりにすることを必ずしも意味していなかった。
広瀬社長は3月の国会証言で危険手当について質問され、東電の請負企業が「個々の作業員に適正賃金」を支払うように奨励したかったと陳述した。
「リセット・ボタンを押すように」
サクラダは20123月、いわき在住のフィアンセの近くにいるために福島に引っ越した。彼は居場所を確保できたので、地元企業に職を得た。
働きはじめる2日前、建設現場に作業員を派遣する地元企業、TOPは、原発で働いてもらいたいとサクラダにいった。サクラダは、危険割増賃金を払ってほしいと申し出ると、TOPの課長は賃金を割増すれば、他の人たちに不公平になると言ったという。
サクラダは2014年初頭、56歳の作業員が放射線量限度に達したとして解雇されるのを見たという。彼はまた、もうひとりの中年作業員――彼の見知らぬ男――が明らかに心臓発作で彼の目の前で死んだのを見た。他の作業員らの誰も休憩室に保管してある除細動器を使って彼を蘇生させる方法を知らなかったという。
サクラダは5月に退職した。彼は裁判の他の提訴人と違って、取材に応じ、この記事で名を明かすことにも同意した。
TOPの課長は、本社に繰り返し電話しても、サクラダの主張に関する質問をファックスしても応答しなかった。
「福島の構造全体、労働時間から放射線量レベルまで何もかもはっきりさせなければなりません。リセット・ボタンを押すように」とサクラダはいった。

(為替換算:1ドル=108.64円)

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