2014年5月15日木曜日

毎日新聞メディア時評にみる「美味しんぼ」騒ぎ論評の偏向ぶりについて

まず、510日付け毎日新聞のオピニオン欄紙面スキャン画像のレイアウトを読みやすいように再構成したものをご覧になってください…

デジタル版記事のリンクを貼っておきます…
メディア時評:
「美味しんぼ」描写、踏み込んだ放射線報道を
=コラムニスト・小田嶋隆
毎日新聞 20140510日 東京朝刊
小田嶋氏の批評対象になっている3本の記事のうち、東京新聞「ニュースの追跡」特集記事は検索でヒットしませんでしたが、残りの毎日新聞記事、福島民報「放射線・放射性物質Q&A」のリンクを貼っておきます…
毎日新聞 2014429
福島民報 201454
小田嶋氏のメディア時評の問題点はまず次の箇所に露見しているように思われます…
ともあれ、虚心に作品を読む限り、作者は、主人公らの体調悪化の原因が放射線の影響であることをかなり誘導的に示唆している。そして、漫画作品にとって重要なポイントは、「断定しているか否か」ではなくて、「どんな印象を与えるか」なのである。

要するに、小田嶋氏によれば漫画は表現の自由が認められていないのでしょう。この了見は目下の「美味しんぼ」騒ぎに広く共有されているようです。
次に小田嶋氏に発言の機会を提供した毎日新聞の記事を紹介しています…
4月29日の毎日新聞は、スピリッツ編集部と井戸川前町長に取材した記事を掲載している。記事の末尾に、放射線防護学を講じる2人の専門医のコメントを載せた、全体として、慎重な言い回しの文章だ。

短文ながらも、ヨイショしているようです。では、2人の専門家のご高説を見てみましょう。
まず、野口邦和・日本大准教授(放射線防護学)のお話し…
急性放射線障害になれば鼻血が出る可能性もあるが、その場合は血小板も減り、目や耳など体中の毛細血管から出血が続くだろう。福島第1原発を取材で見学して急性放射線障害になるほどの放射線を浴びるとは考えられず、鼻血と被ばくを関連づけるような記述があれば不正確だ。

次に、立命館大の安斎育郎名誉教授(放射線防護学)のお話し…
放射線影響学的には一度に1シーベルト以上を浴びなければ健康被害はないとされるが、心理的ストレスが免疫機能に影響を与えて鼻血や倦怠感につながることはある。福島の人たちは将来への不安感が強く、このような表現は心の重荷になるのでは。偏見や差別的感情を起こさない配慮が必要だ。


要するに、◇高線量被曝説、◇ストレス説という、どこかで聞くような二大学説ですね。まず理論ありきで、現地の人びとに寄り添う姿勢がまったくありません。
蛇足ながら、筆者の好きなことば…「現在の知識が絶対不変の真実だとは考えない。狭量を避け、現在のものの見方に縛られない。こころをひらいて他人の考えを受け入れるために、無執着を学び修する。真実は概念化された知識のなかではなく、生活のなかに見いだされる。つねに自己および世界の現実の生活全体をとおして観察し学ぶ」(ティク・ナット・ハン:共存14
さて、小田嶋氏による東京新聞記事の紹介は、次のとおり…
これ(毎日記事)に対して5月3日の東京新聞は「ニュースの追跡」欄で、「確かなのは『分からない』」と題した、「美味しんぼ」の描写を擁護する論調の記事を掲載した。

ご覧のとおり、なんの論評もありません。「これに対して」福島民報記事の紹介はとても詳しい…
5月4日の福島民報は、Q&Aのコーナーを使って、「放射線被ばくで鼻血は出るのか」という真正面からの問いを設定している。回答者は、県の放射線健康リスク管理アドバイザーである長崎大教授の高村昇氏。回答の内容は「鼻血は種々の原因によって起こることが知られていますが、少なくとも福島県内における鼻血が放射線被ばくによるものであるとは考えられません」といういたって明快なものだ。

まず結論ありき。「いたって明快」とは、最高級の褒めことばでしょう。
小田嶋氏はつづけて、結論を書きます…
三つの記事を読み比べて思うのは、震災後3年あまりを経て蓄積された放射線の知識について、新聞は、そろそろ踏み込んだ記事を書くべき時期に来ているということだ。その意味で東京新聞の記事は論外。福島民報は、作品とは別に鼻血に論点を絞った点で冷静。毎日新聞はバランスの取り方において妥当だったと評価できる。

小田嶋氏のいう「踏み込んだ記事」とは、御用学者らのご高説に偏った記事のことでしょう。要するに、報道機関は大本営プロパガンダに徹するべきだというのです。だから「東京新聞の記事は論外」と論評抜きで切り捨てるのです。
最後に、筆者の感想として、毎日新聞編集部にEメール送付した「読者の意見」を掲載しておきます。もちろん、編集部からの回答は現時点でいただいていません。
まず指摘したいこととして、福島県内には放射線被曝のリスクを巡って、言うまでもなく安全論と危険論の2つの立場があります。そして、県民の多くはみずから決めかねて、両者の間で揺れ動きながらも、不安からは逃れられない…というのが、実情のはずです。
福島県内の安全論の筆頭は、放射線健康リスク管理アドバイザー諸氏と県民健康管理調査検討委員会の面々です。この委員会の実態については、貴社の日野行介記者によるスクープの連発によって暴かれています。アドバイザー諸氏の安全論にしても、科学的根拠というより、むしろIAEAICRPなど、グローバルな核産業の代弁者である国際機関の権威に依拠しています。
今回の小田嶋隆氏によるメディア時評は、高村昇氏の放射線無関係論を全面的に是とし、東京新聞の論調を「問題外」と切り捨てています。これでは、時評というより、持論の押し付け、一方的な決め付けであると判断せざるを得ません。
このような高圧的な押し付けが、避難指示解除区域への帰還をためらう避難者や県外への自主避難者など、不安に苦しむ多くの県民を苦しめるだけです。そして、体の不調を訴えにくい風潮をさらに強化し、犠牲者に泣き寝入りを強いることになるはずです。
この点について、貴編集部のご見解を示されるようにお願いします。

もうひとつ、付録として本日付け毎日新聞第一面のコラム『余録』のスキャン画像を貼っておきます。いかにも公明中立をよそっているようでも、「科学的常識」などといった権威風味の決め付けを持ちだすあたりに馬脚が現れるようです。

毎日新聞 20140515日 東京朝刊


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