2013年5月7日火曜日

【海外論調】引き裂かれた東北、未来世代に引き継ぐ負の遺産


アジア太平洋ジャーナル:ジャパン・フォーカス
アジア太平洋…そして世界を形成する諸勢力の批判的深層分析

Vol. 11, Issue 10, No. 4, 2013311
引き裂かれた東北
未来世代に引き継ぐ負の遺産

Tohoku Has Been Rent Asunder for Future Generations
ロジャー・パルヴァース
Roger Pulvers

いま3つに裂かれた東北がある…2011311日以来、ずっとそうなのだ。
本州北東部の一部には、その日の東日本大震災とそれが引き起こした巨大津波の影響を直接受けなかった各地が含まれている。第2の部分は、浸水したり破壊されたりした沿岸の各地である。3番目は、福島県の町や村であり、福島第1原子力発電所からの放射能汚染の影響をこうむった。
3.11地震後の津波の高さを示す地図

しかし、以上のように区分するとしても、東北地方全体と、ある意味では、日本のすべてとが、現在と将来にわたり、放射能に、または汚染の恐怖に汚染されている。
わたしは1970年にはじめて岩手県宮古市を訪れているが、たったいまも、その美しい港街への訪問から帰ってきたばかりだ。過去2年間、被災地に行く度、いつでも最初に気づくらしいものは、鳥たちである。今回もノスリにタカ、シラサギにカラス…そして、空き地に家族であるように思えるハクチョウたちを見た。
空の巣は、木の上や見捨てられた建物の軒下など、そこら中にあった。鳥たちは、2011311日のあと、地上に生きる動物たちすべての暮らし向きを変えてしまった災難など忘れてしまったかのようだ。
宮古市はいくつかの村を市域内に合併し、その結果、人口がほとんど6万に達している。その村のひとつが田老であり、この地はとりわけ甚大な津波被害をこうむった。田老には、1958年に完成し、1966年に増強された高さ10メートルの防潮堤があった。だが、田老を襲った津波は、高さ12メートルに達した。津波がそこの陸地に襲来したのは、地震の約40分後、午後325分である。土地の人たちは、自分たちの防潮堤を重んじすぎていたので、それが多くの人たちが逃げ遅れる原因になったという。田老の人口の5パーセント近く、200人の人びとが津波で死亡した。


3.11津波に襲われる宮古
壁で囲った宮古の護岸も同じように役に立たなかった。黒い水が堤防を乗り越えるシーンの映像は何度も見られたが、これは宮古で撮影されたものである。
今日、市街の広大な区域が荒地になっている。膨大な量のガラクタが波止場と野球場に集められ、山と積まれている。鉄道は閉鎖され、再開はされないだろうとわたしは聞いた。道路利用だけが、かつて風光明媚なことで名高かった三陸海岸のこの区域に出入りする唯一の方法である。
201332日、岩手県宮古市の赤前保育園。
筆者の隣が、1948年に保育園を設立した小関さん。
中央の白髪女性は、翻訳者、児童書出版者の
末盛千枝子さん。末盛さんの現在の主な活動は、
被災地の子どもたちに絵本を届けること。
子どもたちは絵本を家に持ち帰ることができる。
わたしはのちほど、8歳を筆頭に5人の子どもがいる夫婦の家におじゃました。妻とわたしは、6年間に生まれた4人の子どもを育てあげた…だが、5人とは! 家は小さかったけれど、子どもたちは母親と一緒に絵本を読み、お母さんから、そして地域社会全体から注がれる愛を感じていた。「花は咲く」の歌詞さながらだった――「花は咲く…いつか生まれる君に」
これと対照的なのが、汚染された各地の状況である。そのような場所でのわたしの経験を語るより、先月「低線量放射線の影響」に関するデータを同僚のアンダース・モラーとともにオンライン公表した生物学者、ティモシー・ムソーにお鉢をまわしたい。ムソーとモラーは、20113月以来、福島で長期間過ごしただけでなく、チェルノブイリに20年間以上も通ってきた。
「放射線はそこら中にあるが、見ることも、嗅ぐことも、感じることもできない」と彼らは書く。だが、汚染地帯で訪問者たちは「ぶざまにも不均等に成長した樹木、昆虫、鳥類、その他の動物のおびただしい異常」に気づく。「これらは、放射線被曝に誘発された遺伝子変異によって引き起こされた」
ふたりの生物学者たちは、「ソ連、フランス、日本といったさまざまな国で、政府や政府機関による、チェルノブイリおよびフクシマに関する情報の抑圧」があったと断言する。日本にいたっては、「科学者たちに、公衆衛生や低線量放射線の生態学的影響に関する研究課題への関心に偏りがある世界は、原子力産業界の他にどこにもない」と彼らは指摘する。彼らはさらに踏み込んで、オンライン研究論文で、日本の核科学者を1950年代にタバコ産業に雇われていた医学者たちに匹敵するという。
世界保健機関は、最近、福島原発事故による放射線の健康に対する影響は重大なものでないと主張した。だが、ムソーとモラーによる研究は、明確な視点から、このような主張を検討することを迫る。人間の世代交代は、30年間台のできごとである。したがって、チェルノブイリ惨事の影響でさえ、いまだに研究対象は基本的に第1世代に留まっている。
「われわれは負の影響の第1段階を目撃しているだけなのかもしれない」と彼らは書く。「次の事故は3000万もの人びとを放射能汚染で被曝させるかもしれない。… (チェルノブイリ近くの)鳥類、齧歯動物、昆虫類はいま第25世代、またはそれ以上の世代のものであって、これらの生物に関して記録されたチェルノブイリ由来の低線量放射線による負の影響は、人間について報告されているものよりもずっとひどい」
このような知見について読むとき、わたしは、赤前保育園の園児たちの明るい顔や、お話を読んできかせる母親の声を聴いている幼い子どもたちのキラキラした目の輝きを忘れることができない。宮古の人びとは、彼らの生活と日本のすべての人たちの生活を変えてしまった2年前のあの日以来、思いもつかない喪失と過酷さに苦しんできた。だが、彼らは少なくとも「花は咲く…いつか生まれる君に」という希望を抱くことができる。
しかし、東北の汚染された各地で暮らしを築いていた人びとには、帰還の望みはない。彼らは、彼らを騙し、騙しつづけている政府と原子力産業に拉致されたのだ。
現在の日本政府が、安倍晋三総理大臣のリーダーシップのもと、原子力産業を再建する意向であるという事実そのものが、福島県の放射能汚染による被害者に対する侮辱であるだけでなく、この国に生きるすべての人びとに対する途方もない規模の攻撃である。
安倍さん、あなたは「強い日本」を願うという。だが、国を防衛すると称する豪腕が、国を粉砕し、その住民のあらゆる希望を奪うことになるだろう。
すべての敵が国外から来るのではない。核化した日本は、この国の人びとに迫る最大のテロなのだ。このテロがつづくなら、花が咲くとしても、いま生きている子どもたちといつか生まれる世代の墓に咲く花だけだろう。

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本稿は、英字紙ジャパン・タイムズ、Counterpoint欄掲載の記事に若干の変更を加えた改訂版
ロジャー・パルヴァースは、作家、劇作家、舞台演出家、翻訳者であり、東京とシドニーで時間を配分して活動している。40冊を超える本を出版。最近著は“The Dream of Lafcadio Hearn”(『ラフカディオ・ハーンの夢』)。彼はアジア太平洋ジャーナルの提携パートナーである。


転載・引用のさいに推奨されるクレジット表記:
#原子力発電_原爆の子/アジア太平洋ジャーナル Vol. 11, Issue 10, No. 4, 2013311日「引き裂かれた東北、未来世代に引き継ぐ負の遺産」――ロジャー・パルヴァース http://besobernow-yuima.blogspot.jp/2013/05/blog-post.html
Roger Pulvers, "Tohoku Has Been Rent Asunder for Future Generations," The Asia-Pacific Journal, Vol. 11, Issue 10, No. 4. March 11, 2013.
http://www.japanfocus.org/site/view/3913

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――アンダース・パぺ・モラー、ティモシー・A・ムソー

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