2012年8月5日日曜日

福島:失われた貴重な時間~ミシェール・フェルネックス博士の警鐘


福島第1原子力発電所が放出した膨大な量の放射性物質によって汚染された広大な地域で、いまなお数多くの子どもたちが、ICRP勧告に準拠する日本政府の「事故の規模を小さく見せる」「事実を隠蔽する」「さまざまな基準値を引き上げる」三大政策のもと、なんら有効な手立ても施されずに放置されています。ここで、スイス、バーゼル大学医学部の名誉教授、ミシェール・フェルネックス博士の警鐘に耳を傾けてみましょう。
ヴィジー(WHO本部前のデモ)にて、左からフェルネックス博士「チェルノブイリの犯罪・共犯者WHO」 
チェルトコフ氏「WHOの21年間の沈黙と嘘」 クリス・バズビー博士「WHOとIAEAの協定を改正せよ」
 
福島:失われた貴重な時間
――ミシェール・フェルネックス
2002年、ナバロ博士が世界保健機関(WHO)の事務局長を務めていたとき、「チェルノブイリのあと、WHOはなにをすべきだったのだろう」とたずねた。わたしは即座に、1956年のもののような「電離放射線および遺伝学に関するワーキング・グループの召集だ」と答え、それを確認のために書き記し、「ゲノム不安定性についてもだ」と付け加えた。

この問への回答として、WHO1956年、遺伝学でノーベル賞を授与されたミューラー教授ほか、この分野で国際的な評価を得ている著名人を加えた研究グループをジュネーブに召集している。彼ら科学者たちは、「ゲノムは人類の最も貴重な宝であること。ゲノムはわれわれの子孫の生命と将来世代の秩序だった成長を決定すること。われわれは専門家として、将来世代の健康が核産業の拡大と放射能源の量的増大のために脅かされていると確認すること。人びとに見受けられる新たな変異の出現という事実が、その人びとおよび彼らの子孫にとって致命的であると考えていること」を世界に思い起こさせた。遺伝学者らはそれ以来、とりわけ放射線に起因するゲノム不安定性という新たな分野を探求してきた。

1959
年にWHOと国際原子力機関(IAEA)とのあいだで協定が結ばれ、それ以降、一連の法的追加文書が作成されて、WHOは核事故に介入することを禁じられるようになった。ところが1986年、WHOに対してソ連邦の保健大臣が国際研究プロジェクトの立ち上げとチェルノブイリ被災者援助を要請した。WHOには介入権限がなかったので、18か月間も応答がなかった。対応したのは、民間原子力を推進するIAEAだった。IAEAが作成したプロジェクト案には遺伝学に関する言及がなく、高い優先順位が与えられていたのは虫歯であり、これが調査・研究の主題になった。
福島の事故につづいて、住民はどのような遺伝的損傷をこうむったのだろうか。昨年中、放射性核種の環境拡散量を減らそうとして、みずから消耗した、あの作業員たちの細胞に変異がすでに刻印されたのだろうか。放射性物質を吸引し汚染食品を食べた人びとはどうなのだろう。このために遺伝変性が誘引されたのだろうか。あの時以降に誕生し、あるいは放射線を浴びた父母から生まれようとしている子どもたちは、どうなのだろう。子どもたちは両親の傷つきやすいゲノムを引き継いだのだろうか。あるいはおそらく、両親以上に悪い影響をこうむったのだろうか。
研究者らは実際、子孫の場合、ゲノム不安定性の原因となる遺伝子損傷、なかでも遺伝子周辺部の損傷が両親よりもはるかに悪性であること、またそのリスクがひとつの世代から次の世代に受け継がれるにつれて増大することが判明して驚くことになった。RJ・ベーカーと共同研究者らは、母ノネズミから子ノネズミに受け継がれる遺伝子のDNAを研究し、その世代から世代に移るさいの変異レベルが、これまでにわれわれが動物界で遭遇してきた、どのレベルよりも100倍高いものに達することを発見した。この齧歯動物が生息する地域では、セシウムが植物によって循環もするだろうが、雨水に運ばれ、土壌中に深く浸透するので、放射能レベルが低下していると見られていた。
チェルノブイリから遠く離れた森の放射性物質に関する条件は好転しているので、齧歯動物の反応は楽観視できるだろうと思えるかもしれない。だが、ベラルーシのゴンチャロヴァとリャボキンが研究したノネズミの集団では、ゲノム損傷が22世代にわたって悪化しつづけた。彼ら遺伝学者たちは、放射能に対する適応に相反する結果を観察したのであり、破壊された原子炉から30ないし300キロメートルのすべての研究対象集団でゲノム損傷が拡大していた。ミンスク近く、汚染度の最も低い地帯では、遺伝子損傷の進行は遅かったが、それがいつまでも続き、22世代後まで悪化したのである。
ヒトおよび齧歯動物の双方に観察された遺伝的影響にもとづき、テキサス大学のヒルズ教授はネイチャー1996425日号の編集者講評に次のような結論を記すにいたった。「原発事故の変異原性効果はこれまで想定していたものよりもはるかに深刻であるかもしれず、真核ゲノムはこれまでありうると考えられなかったほどのレベルの突然変異を起こしうるかもしれないとわかった」
福島では、はじめは祖父母世代から父母世代へと、次いで子ども世代から孫世代へと何世代にもわたり、ゲノム不安定性は追跡されなくてはならない。一年経過して、子どもたちの内部被曝と外部被曝が合わさって引き起こされた損傷度を、同じ地域の2011年以前のデータと比較して、あるいは放射性降下物を免れている、遠く離れた地域集団のデータと比較して測定するべきである。出生時体重、死産事例、28日目までの周産期死亡率、出生時奇形(心臓障害は事後に詳しく調べなければならない)、そして遺伝疾患として、ダウン症候群はすべて調べられるべきである。腫瘍による脳損傷、および知能指数の減退のような発達遅滞は学齢期になって判明するだろう。チェルノブイリ後の知見、すなわちチェルノブイリに近い国ぐにで人口から何千もの女児が欠落していること、さらには遠くドイツにおいてさえも、女児不足が測定可能であったことから、女児出産の不足が明らかにされたので、男女比もまた調べられるべきである。
血液学者と免疫学者らは、リンパ球と免疫グロブリンを調べ、とりわけ甲状腺や膵臓ランゲルハンス島(膵臓の組織内に島状に散在する内分泌性細胞群)といった内分泌腺の免疫自己抗体を探すべきである。これらの分泌腺はヨウ素131と放射性セシウムを蓄積する傾向があるので変性されうる。
国際原子力機関(IAEA)憲章は、政治的に押し付けられた決定をすることを同機関に義務づけている。このような決定はコスト削減にはかなうだろうが、医学的には容認できない。このような条項は、国連機関であるIAEAの根本目的が「全世界における平和、保健及び繁栄に対する原子力の貢献を促進」することであるのを思い起こさせる。
これらの深刻で一般的な疾病が電離放射線によって引き起こされるといったん知られれば、世界の核産業の発展が阻まれるので、目的を達成するために、IAEAはこれを認めるわけにはいかない。
したがって、国の保健当局にとって、IAEAは助言を求めるに貧弱な情報源である。IAEAは健康の大惨事を否定し、経済的考慮を優先する。IAEA憲章は、深刻な病を放射線のせいにする、あるいは病を放射線に関連させることを禁じる。不正確な判断は、高度に放射線被曝した地域住民の避難を遅らせる。福島で脅威が迫っていた住民に安定ヨウ素剤の配布がなかったのは、ほとんど理解不能である。チェルノブイリ後のポーランドでキース・ベイヴァーストックが示したように、そのような予防措置は歓迎されたであろう。
深刻な核事故の最初の犠牲者は、アレルギーが増大し、伝染病が悪化して、それが慢性病になり、深刻な合併症がもたらされることになる子どもたちであり、将来も子どもたちであるだろう。チトフ教授は、ベラルーシで事故のあと、免疫システムが大きく変性したことを示した。白血球細胞とガンマブロブリンの双方ともに変性した。このことは長期にわたる監視を必要とする。膵臓ランゲルハンス島のベータ細胞に対する、あるいは甲状腺細胞に対する自己抗体に関しても研究を実施する必要がある。橋本甲状腺炎は1型糖尿病と原因が同じであり、両者とも核事故のあとに増加している。チェルノブイリで、この型の糖尿病は子どもが幼ければ幼いほどますます襲っている。この糖尿病は、われわれの国ぐにで見受けられる1型と同じ特徴を現さない。したがって、これは電離放射線に起因する病気である。ほかの免疫システムの病気は生殖腺に影響し、若い思春期の女性に、および男性不妊に問題が起こる。
被曝量が同じなら、外部放射は、基本的に放射性核種の経口摂取を原因とする慢性的な内部放射に比べて、損傷が10ないし100分の1になる。これらの核種は、胸腺、内分泌腺、膵臓、骨の表面および心臓といった臓器に蓄積する。
バンダジェフスキーはチェルノブイリ後の解剖によって、児童の臓器のセシウム137蓄積は、同じ地域に住んでいた成人のそれに比べて2倍になっていることを示した。最高レベルのものは、新生児および母乳育成児の膵臓および胸腺の組織で検出された(バンダジェフスキー、SMW 133: p.488-490, 2003)。
子どもたちを守るために、われわれは妊娠中の女性たちに完璧な防護を提供しなければならない。家庭および学校で汚染されていない食品と飲料を提供すれば、子どもたちは放射性核種の摂取を避けることができる。非汚染地域における保養もまた有益である。
ペクチンは、ストロンチウム90、放射性セシウムおよびウラン誘導体の吸収を減らす。ペクチンはまた、糞便および尿の双方による放射性核種の排出を促進する。大腸内細菌は、長い糖質の鎖を部分的に代謝し、その断片が吸収されて、生体内の放射性核種を集める。イスパラ(イタリア)にある欧州委員会の研究所の科学者たちは、食品添加物ペクチンを認容性が非常に良好であり、禁忌要因もないと考えている。
汚染された生体は、ビタミンEおよびビタミンA、それに抗酸化剤として作用するカロチノイドを摂取することによっても防護することができる。ジャージー種の牛はカロチノイドとビタミンAを非常に豊富に含み、子どもたちに非常によい牛乳を産出する。
子どもたちに与えられた線量形に替えて、全身を測定し、定期的に学校へ運び込むことができる可搬型分光計を採用すべきである。分光計は身体のセシウム137負荷量を測定する。負荷量が体重1キログラムあたり20ベクレルを超える場合、汚染源を排除するために家族に連絡すべきである。
汚染されてしまっている地域社会で、小児科医、遺伝学者、免疫学者によって、誕生から思春期に達するまでの全期にわたり、疫学的・医学的な問題が研究され、対処されるべきである。福島の現在の状況を、汚染されていない比較地域におけるデータと比べるべきである。
当局はなにをしているべきか?
さらなる汚染は、すでに起こっている遺伝学的損傷を悪化しうるであろうし、遺伝学者の助言を得て、これを回避すべきである。汚染された地域の住民のリスクの80パーセントを構成する内部被曝を軽減するために、責任業界または政府当局は非汚染食品を提供すべきである。
放射性核種によって身体が汚染されている場所で、子どもたちは蓄積放射性核種の排出を促進するキレート剤による治療を受けるべきである。これは、藻類、野菜・果物由来のペクチンに似た多糖類である。
長期的には、抗当然変異性の特徴をもつ分子が研究され、選別され、開発されるべきである
ミシェール・フェルネックス博士
バーゼル医科大学(スイス)名誉教授
元・世界保健機関(WHO)顧問
【参考文献】Peace Philosophy Centre
ミッシェル・フェルネックス博士緊急提言
原発事故の際にIAEAに忠告を求めてはならない

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